遠山翠ショートストーリー
私がミラノから帰ってきた翌日、つまり今日なんだけど。
達哉の様子がおかしかった。原因はよく分からない。
仕事中も何か考え込んだり、ぼーっとしていたり。ずっと上の空。
達哉に理由を聞いても『なんでもない』と、はぐらかされてしまう。
ただ兄さんはここ数日、達哉に会いに店にくる女の子がいるようなことを話していた。
父さんが「この前、遠山さんが来てたぞ」とも言っていた。
…まさか、ね。
第四回 AnotherView 鷹見沢菜月
夕食後、私は自室の机に座って考え込んでいた。
もし勘違いだったとしても、せっかく店に来てくれた翠と顔を合わせられなかったのは申し訳ない。
とりあえず、お詫びも兼ねて翠に電話してみよう。
携帯電話から翠の電話番号を探し、ダイヤルする。
ツー、ツー。
繋がらない。話し中のようだった。
決意を削がれた私はふと窓に目をやった。
そうだ、達哉に聞いてみようかな。電気がついてる、部屋には居るようだ。
世話好きの達哉だから、翠の相手をしたのは彼で間違いないだろう。
私は朝霧家に面した窓に向かうと、達也の部屋の窓を叩いた。
中から笑い声が聞こえる、誰か一緒にいるのだろうか。
ほどなくして、達也が部屋から顔を出す。携帯電話を片手に。
「あ、ごめん。電話中だった？」
「いや、大丈夫だけど。どうかしたか？」
やはり面と向かってしまうと言い難いものがある。
「その、えっと…この前、お店に翠が来てたんだって？」
どうにか聞きたい事を聞けた。
「あぁ、来たな。しかも3日連続で、だ。それが？」
「そうなの！？」
思わず声を上げてしまった。
「近所めーわく」
達也が自分の口に指を当てる仕草をする。
「あ、う…うん」
私は思わず俯いてしまった。恥ずかしい。
それから、達也に色々聞いた。聞けば聞くほど翠の行動がわからない。
最初は達哉と偶然、商店街で会ってから店に来たこと。
多分、ホントに偶然。偶然…なんだと思う。
その日から3日続けて店に来たこと。
私が店にいないこと、知らなかったのかもしれない。
でも、そのことを達哉が翠に話さないわけがない。
3日目に達哉が翠に怪我を負わせてしまったこと。
これは達哉の不注意だけど。
その埋め合わせに、昨日二人で出かけたこと。
変な意味は…ないはず…。
ある程度聞き終わると、今度は達哉に翠のことを聞かれた。
まるで、達哉が翠に興味を持っているような感じで。
「あ、あの…変なこと、聞いていい？」
唇が乾く。緊張しているのが自分でも分かる。
「内容によるけど？」
「さっきの電話の相手って…誰？」
「遠山だったけど、それが？」
達哉はあっさり答えてくれた。
なんで？なんで達哉が翠と電話してるの？
さっき翠に繋がらなかったのって、達哉と電話してたからってことだよね。
私は頭の中が真っ白になった。
「も、もう遅いから寝るね。おやすみ」
私はじっとしていられなくて、無理やり話を打ち切った。
「あ、ああ」
怪訝そうな達哉をよそに、私は窓とカーテンを閉めてしまう。
翠は私と達哉をさんざん『夫婦』と冷やかしていた。
それなのに、もしかしたら今の翠は…。
もう一度、携帯電話を手に取り、翠にコールする。