遠山翠ショートストーリー
菜月と話した後、俺は遠山に電話をかけなおした。
ツー、ツー。
話し中らしい。待ってるから、って言ってたのに。残念だ。
「ん？」
なんで残念なんだ？世間話をしてただけだろ。それなのに、なんで。
それに、遠山の話し相手が誰なのか妙に気になる。
俺以外の男とかじゃないだろうか、この前街に出た時にも思った疑問。
第六回
時間を置いて、もう一度かけなおす。
「もしもし、遠山？」
「うん」
今度はすぐに繋がった。が、遠山の声に元気が無い。
さっきとは様子が違う。
「さっき繋がらなかったけど、何かあったのか？」
「あ、かけてくれたんだ。ごめんね」
俺の問いに答えず、謝る遠山。
「いや、それはいいんだけど」
「あ、あのね…」
遠山は俺の言葉を遮る。
「さっきの電話、菜月からだったの…」
「え？」
思わず窓を見た。菜月が…いた。
「あ゛」
菜月は寂しそうな笑顔を残して部屋に引っ込んだ。
俺と遠山が電話で話していると気付いたのだろう。
カーテンを閉め、電気も落とされる。
「どうかしたの？」
俺が変な声を出したのに遠山が不思議がった。
「いや、俺の部屋の窓から菜月の部屋が見えるんだけど…」
「うん」
「今、菜月に見られてた」
「え？」
遠山も絶句。
なぜだろう、菜月に見られてもどうってことないはずなのに。
こうして遠山と電話していることをうしろめたく感じているのか。
いや、そんなはずはない。
…俺は遠山を必要としている…？
俺が色々考えている間、遠山も何もしゃべらない。
どのくらいの沈黙だったか、先に破ったのは遠山だった。
「あ、あのね、朝霧君」
改まった声で話す遠山。
「ん、何？」
「え、えと…なんていうかな…その…私さ…」
遠山は要領を得ない話し方をする。
「前も言ったけど…朝霧君のこと…」
たどたどしく話す遠山。俺はその言葉に耳を傾けていた。
「き、嫌いじゃないっていうか…なんていうか…その…」
さすがに鈍い俺でも遠山が何を言わんとしてるか気がついた。
同時に俺自身の気持ちにも。
「あ、あのさ、朝霧君って…どんな女の子が好み…？」
いきなりな質問だが、話が逆方向に行ってるぞ。
「遠山、明日ヒマか？」
遠山の質問を無視して俺は聞き返す。
「え、え？う…うん。空いてる、空いてる！」
返事と一緒に雑音が入る。きっと思いっきり首を振っているのだろう。
「じゃぁ10時に商店街の入り口。俺も話したいことがあるから」
「…うん、分かった。待ってる」
一方的な気がするけど、こういうことはやっぱり実際に会って話さなきゃいけないと思う。
何も言い返さなかったのは、遠山が俺が何をしたいか気付いたのかもしれない。そう思いたい。
「それじゃ、また明日。おやすみ」
「うん、おやすみ」
俺は電話を切ると、ベッドに大の字になった。
今更ながら恥ずかしさが込み上げてくる。
多分、遠山は俺のことを…。
俺も遠山のことを…。