D.C.U SS 暑中お見舞いSS その2

「義之くん、もうお昼だよ!」
「んぁ?もうそんな時間ですか……?」
だらだらと2度寝3度寝を繰り返していたら、ずいぶんと時間が経っていたようだ。
さくらさんがわざわざ俺を起こしに来るのも珍しいな。何か用だろうか。
俺はまだ眠い目をこすると、声の主の方に目をやる。
「あの、さくらさん。なんて格好してるんですか?」
俺は一応、周りを確認した。ここ、俺の部屋だよな。
っていうか、まだ夢の中じゃないのだろうか、そんな光景が目の前にあった。
「何って、水着だよ。これから水遊びするんだ。ねー、はりまお」
「あん!」
さも当然のように答えるさくらさん。
その足元には、いつもは学園にいるはずのはりまおも一緒だった。
さくらさんが着せたのだろうか、ご丁寧にはりまおも水着を着ている。
というか、動物に水着って意味あるのだろうか。


「ということで、義之くんにはプールを用意して欲しいんだけど」
そんなことを平然と言ってのけるさくらさん。
「俺にはそんな権力も財力もございませんが」
「そんなの分かってるよ。だから家庭用のプール。あれに空気を入れて欲しいの」
「はぁ。まぁその程度なら」
そんなものがウチにあることすら知らなかったのだが、家主が言うのだから
間違いないのだろう。
「あ、空気入れがないから、義之くんが直接入れてね」
「マジっすか!?」
以前、浮き輪を自力で膨らませたことがあったが、あれでも相当な時間と体力を必要とした。
それを家庭用プールのサイズでやれと仰いますか、ここの家主は。
「さすがに効率悪いんで、朝倉家から空気入れを借りてきますよ」
確か去年、朝倉姉妹とプールに行ったときにポンプ式のを使ってたはずだ。
「そう?まぁボクはどっちでもいいけど。それじゃ早めにお願いね」
そう言い残すと、さくらさんははりまおを連れて部屋を出て行った。
「まったく違和感がなかったな」
さくらさんのスク水姿が自然すぎていたことに感心してしまう俺だった。


俺は手っ取り早く着替えると、朝倉家に向かう。
勝手知ったる何とやら、とはいえさすがにインターホンくらいは押す。
すると、中から出てきたのは純一さんだった。
「ん?義之君か。どうした?」
70を越える高齢のはずなのに、いつ会っても若々しい純一さん。
俺はさっそく用件を伝える。
「あの、空気入れを借りたくて」
「構わないが、義之君は自転車を持っていたっけ?」
「いえ、その空気入れではなくてですね。浮き輪とかに使う方の」
「あぁ、そっちか。どこか遊びにいくのかい?」
「いえ、ウチでさくらさんが」
ことの経緯を簡単に説明する。
「そうか。ったく、いつまで経っても子供だな、さくらは」
ひどくあきれた様子の純一さん。
そう、あんななりでもさくらさんは結構なお歳のはずなのである。
信じられないが、純一さんと同じかそれ以上との噂もあった。
本当の年齢を聞いても『レディに歳を聞くのは失礼だよ』と一蹴されていた。
それなのに、さっき見たスク水姿が異様に似合っている。
そもそもレディと呼べる年齢かすらも怪しいよな。
もっとも、そんなことは本人の前で言えるはずないのだが。
「あとで音姫にでも持っていかせよう。少し待つようさくらに言っといてくれ」
「了解しました。お願いします」
用件を伝えた俺は芳野家に戻った。


さくらさんが縁側で監視……もとい見守る中、俺は大きなパラソルを広げていた。
こんなものまであったのか、と思う。
少し埃を被っていたので、雑巾で簡単に汚れをふき取る。
ちょうどそのパラソルを広げ終わったとき、
「こんにちは〜」
声の方に目をやると、音姉が空気入れ片手にやってきた。
その後ろには由夢も一緒だ。
「お待たせしました、さくらさん」
「いえいえ、わざわざごめんね音姫ちゃん。じゃぁ義之くん、よろしく」
「はいはい」
俺は音姉から空気入れを受け取ると、今はつぶれているプールにチューブを差し込む。
シュコシュコと空気入れを踏むと、少しずつプールが形を成していく。
思いのほか重労働で、炎天下でこれをやると結構な汗をかいた。
足が疲れて嫌になりそうになってきたころ、プールが完成する。
「じゃぁ水入れるね。はりまお、蛇口ひねってきて」
「あん!」
元気に返事をしたはりまおは台所に向かった。
少しして、さくらさんが持っているホースから水が吐き出される。
っていうかあの犬、水道の蛇口もひねれるのか?


プールに半分程度の水を満たし、準備が整った。
さっそく飛び込むさくらさん。
「きゃは!つめたーい」
「あんあん!」
水が平気なのか、はりまおもそれに続いた。
子犬と戯れる少女。んー、どう見ても子供の水遊びにしか見えない。
「わー、楽しそう」
そんなさくらさんを羨ましそうに見る音姉。
「音姫ちゃんと由夢ちゃんも一緒にどう?楽しいよ」
「え、えーっと。さすがにここじゃ」
「うん、そうだよね」
さくらさんはそう誘うが、音姉と由夢は道路に面した垣根に目をやる。
たしかに通行人から丸見えなのは問題だろう。それが正しい反応だ。
しかし、さくらさんはその辺は全く気にしていないらしい。
と、そこで由夢がぽむ、と手を叩いた。
「お姉ちゃん。足だけでも浸からせてもらおうよ」
「そうね、由夢ちゃん良いこと言った」
音姉はそれに頷くと、二人揃って家の中へ。
そして椅子を持ってきて、靴と靴下を脱いで素足をプールに入れた。
「んー、気持ちいい」
「うん、冷たくって」
ぱしゃぱしゃ水を蹴り、満足そうな表情を浮かべる二人。
さくらさんもはりまおに水をかけたりかけられたりしながら遊んでいる。
すげー羨ましい。

俺の視線に気付いたのか、さくらさんが言う。
「義之くんも入りなよ。気持ち良いよ」
「それじゃ足だけ」
椅子がないので靴を脱いだら、直接プールに踏み込む。
と、それを見計らったかのように。
「よし、はりまお。いけぇ!」
「あんあん!」
さくらさんの頭の上にいたはりまおが飛びかかってきた。
水びたしで。
「え?おい、こら!」
俺はそれを避けようとするが、滑りやすいプールの上である。
当然のように足を滑らせた。


とても天気の良い、プール日和な1日だった……。




〜あとがき〜
スクール水着のデザインを考えた人は神だと思います(勘違い)
いつだったか、何かのイベントでスク水を着て物販を頑張ってる
おねーさんがいました。
でも、スク水は学生が着てこそ意味がある気がする。
っていうか年齢制限あるよね、絶対。


2006.08.18

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