D.C.Ⅱ SS 熱中症には気をつけようSS 前編
「ふぅ。あっちぃな～」
桜公園のベンチでひと休み。さすがに真夏の真っ昼間は外出するもんじゃないな。
周りには誰もいないし、少しの時間なら荷物を置いて離れても大丈夫だろう。
俺はさくらさんに頼まれた買い物の荷物をベンチに置くと、自動販売機に向かった。
「ここはスカっと炭酸でも」
お金を入れ、PONTAのアクアマリン味ボタンを押した……つもりだった。
が、その直前に横から別の指が違うボタンを押していた。
ガタン。
もちろん俺の目的とは違うものが払い出される。
そして、俺より先にそれに手を出す別の人物。
「コラ。何しやがる、杏」
このクソ暑い中、長袖のゴスロリ服を着た杏が勝手にボタンを押していた。
「暑いから冷たい飲み物が欲しくなったの」
さも当然のように言い、杏は取り出し口から自分で押したアイスココアを持ち出す。
「ゴチ」
「しません」
「ちっ」
杏は軽く舌打ちすると、120円を自動販売機に入れた。
これで買えってことだよな。
「って、お前が押してどーする！」
ガタン。無情にも払い出される飲み物。
「別に。どうせこれ飲むでしょ」
杏が手にしていたのは俺が買おうとしていたPONTAだった。
結局そのPONTAを受け取った俺だが……
「何か納得いかない」
「お腹に入っちゃえば一緒よ」
俺と杏はベンチに戻ると、PONTAを一口含み息をついた。
「で、なんで杏がここにいるんだ？」
「おかしい？」
「いや、質問はそういう意味ではなくてだな」
俺は杏と一緒に木陰のベンチでジュースを飲んでいた。
特に一緒にいる理由はないのだが、その辺は付き合いというやつだろう。
「冷やかしの帰り」
「ストレートな言い分だな」
「でも、なんか調子が悪くて。それで義之を見かけたから」
俺がジュースを買おうとしているのを妨害できるくらいだから
それはそれは、まったく大したことないのだろう。
「暑いわね」
「暑いな」
ちっとも爽やかじゃない風が吹いた。
日本の夏特有の、湿気を含んだ生暖かい風。
このベンチも日陰とはいえ、ただ太陽の光を遮っているだけである。
じっとしているだけでも汗が噴き出してくる。
杏もあまり汗はかいていないが、いつもは真っ白い肌がやや紅潮していた。
「疲れちゃった。ちょっとごめん」
まだ中の残る缶を脇に置くと、俺の肩に杏がもたれかかってくる。
いや、倒れ掛かってくると表現した方が妥当かもしれない。
「お、おい。杏？」
思わず不謹慎なことを考えてしまったが、どうも杏の様子がおかしい。
単に休んでいる、というにしては妙に息が荒い。
それに服越しに感じる杏の体温が妙に熱い気がする。
女の子は基礎体温が高いとかいうが、それにしては熱すぎないか。
っていうか、熱中症とか熱射病とか、そういうのじゃないのか？
くそ、調子が悪いのは本当だったのかよ。
「杏、大丈夫か？」
「あんまり大丈夫じゃないかも」
弱々しく、答えるのが精一杯といった様子の杏。
どう見ても良くない兆候だよな。
俺は携帯でネットから熱中症の症状と、その応急処置を調べた。
簡単に調べたところ、どうやら杏は熱中症で間違いないようだ。
熱中症になりそうな原因や、現在の症状がそれに合致する。
黒主体の服は、陽の光をただでさえ集めやすい。
そのうえ長袖なのだから、体温が下がらないのも無理はないだろう。
苦しそうな杏を見かねて、俺は膝枕をさせる格好で横にさせた。
本当は横にさせることすらもして良いのか分からない。
でも、俺に寄りかかっているよりは楽になるだろうと思った。
俺は手早く携帯をいじると、応急処置について調べる。
１．涼しい場所に移す。
２．衣服をゆるめ、頭を高くして寝かせる。
３．首や脇の下を冷やして熱をとる。
４．意識がはっきりしたら、水分を十分に補給する。
涼しいとはいえないが、桜公園の中ではこれ以上涼しい場所はない。
決して最善ではないにせよ、この場所で杏が倒れたのは幸いだろう。
次は……い、衣服をゆるめるのか！？
必要なこととはいえ女の子の、しかもクラスメートで席が隣同士の子の
服を脱がすなんて……。
いや待て早まるな、別に脱がさなくてもいいのか。
子供の服を脱がしている挿絵があったから、妙なことを想像しちまった。
と、杏の服をよく見る。
これといって、ゆるめられるような部分が見当たらない……。
どういう構造かは良く知らないが、ワンピースのゴスロリ服なので、
脱がすしか手はないんじゃないだろうか。
ネットでちらりと見えた『症状が重い場合』の結果を考えると
急がなくてはならない。
お……俺はどうすれば！？
～続きます～
～あとがき～
「水夏～おー157章～」って作品がありましたね。
そんなノリで。
熱中症の女の子がいたら、率先して助けてあげよう（違）
っていうか普通に危険なので、運動部に所属している
人とかは本当に気をつけようね。
2006.08.04