D.C.Ⅱ SS 熱中症には気をつけようSS 後編
～前回のあらすじ～
炎天下の桜公園で、杏が倒れてしまった。どうやら熱中症らしい。
介抱しようにも、杏とはいえ相手は女の子だ。俺はどうしたら？
「ぬ、脱がすしかないのか」
杏に聞こえないよう、小さくつぶやいた。
自分の心臓がバクバクいってるのが分かる。
でもどうやって脱がそう。ワンピースってことは文字通り1枚の布な訳だ。
ってことはアレか？
スカートから持ち上げて両腕、首と通すしかないのか？
刻一刻と過ぎていく時間。
迷っていた時間はほんのわずかだろう、だが俺にとってはとてつもなく
長い時間に感じた。
「よ、よし」
意を決し、杏の服に手をかけようとしたその時。
「ん……んぅ」
杏が少し身じろぎをした。
ビクリとして、俺は思わず手を引っ込める。
「あ、あの……杏さん？」
しかし杏は俺の問いかけに答えない。
と、服のひらひらに隠れていたボタンが顔を覗かせていた。
……ら、らっきー？
そう思っていいのか判断に困るが、とりあえず脱がすとかそんなことを
しなくても大丈夫そうだぞ。
誰に言い訳してるんだろうな、俺。
「杏、ちょっとごめんな」
杏の胸元に手を伸ばし、ボタンを外す。
無抵抗の同級生の服をゆるめるなんて、すごく背徳的なことをしてる気分だ。
いや、これは必要なことなんだ。そう自分に言い聞かせる。
胸元のボタンをいくつか外して、風通しが少しでも良くなるように襟を広げる。
男の俺とは明らかに違う、きめの細かい肌があらわになる。
女の子の肌をこんな間近で見るのなんて、初めてかもしれない。
と、見とれている場合じゃない。今できることをしよう。
次は……「首や脇の下を冷やして熱をとる」っつってもな。
ハンカチを濡らして当ててやるのが一番だと思うのだが、杏に膝枕をしている以上
俺も動くに動けん。どうしたものか。
「ふむ、熱中症だな。とりあえずこれを使え」
「あぁ、すまない。って杉並！？」
さりげなく手渡された、濡れたタオルを受け取ってしまったが、その相手は
なぜか杉並だった。
「よう♪」
そんな爽やかに挨拶されてもな。
「っていうか、いつからいたんだお前」
「桜内が雪村の服に手をかける辺りからだな。桜内もやはり男なのだと思ったものだ」
うんうんと、感心するように頷く杉並。
なんかひどく嫌な感心のされかただな。
それよりも杏だ。俺は手渡された濡れタオルで杏の顔を拭いてやる。
続いて、首元にもタオルを当てる。さすがに、脇までは手を伸ばせない。
それは勘弁して欲しい。
ただ、濡れタオルを当てるだけでも違うようで、杏の表情が少し柔らかくなった気がした。
俺が杏を拭いてやっている間に、杉並はいつの間にかうちわを用意していて、杏を扇いでいる。
「おっと、もうこんな時間か」
杉並はわざとらしく腕時計を確認しすると
「雪村が落ち着いたらこれを飲ませてやれ」
どこまで準備がいいのだろう、さらに杉並は冷えたペットボトルを用意した。
『男のミネ○ルウォーター』
杉並のチョイスに怒りを覚えたが、俺は杏を膝に乗せて動けない。
「じゃぁ、俺は用事があるのでこの辺で。あとは適当にヨロシクやってくれ」
来たときと同じような、にこやかな笑顔で立ち去る杉並。
「……何をしにきたんだ、アイツ」
俺は歩き去る杉並の後姿を見て、首をかしげた。
杉並は結局、タオル、ミネラルウォーター、うちわを置いていった。
別にバッグから取り出した、というわけではないはずだ。
なら、いったいどこに隠し持っていたのだろう。
ヤツの後姿はどう見ても手ぶらだ。不思議でならん。
その後、10分くらいだろうか、杏をうちわで扇いでいると
「義之？」
杏がうっすらと目を開けた。
「杏、大丈夫か？」
「うん、だいぶ落ち着いた。あ、ごめんね。すぐ起きるから」
「無理するな」
起き上がろうとする杏の額を押さえ、寝かせたままにする。
「もう少し寝とけ」
「……うん、お言葉に甘える」
迷った表情を見せた杏だったが、素直に言うことに従った。
再び目を閉じた杏。俺はその頭を軽くなでてやる。
一度だけ目を開いて俺の顔を見たが、また目を閉じて俺にされるがままになっていた。
これで涼しい風でも吹いてくれれば楽なんだがな。
「なんだ、やれば出来るじゃないか」
「ん？何か言った？」
「いや、こっちのこと」
俺がそう願うと、さっきまでのぬるい風とは違った、涼しい風が吹き始めた。
枯れない桜の巨木のたもと。
一人の小柄な少女がその幹に寄りかかっている。
「義之くん、今日はちょっとだけサービスだよ」
少女は微笑むと、手にしていたアイスを頬張った。
～あとがき～
ご都合主義で片付けた感ありありで恐縮です。
中盤、駆け足ですね。時間がなかったんで……言い訳です、はい。
プロットを考えるのも悩みますが、同じくらいタイトル付けも悩みます。
今作はセンスのカケラもないタイトルになってますが、これを読んでみて
みなさんだったらどんなタイトルにしますかね？
次のSSは暑中お見舞いの第2弾です。もう少しマトモだと思われます。
暑いうちに掲載できればいいなぁ、って暑くないと暑中見舞いじゃなくなるな。
ちなみに「男のミ○ラルウォーター」は実在します。
2006.08.10