D.C.Ⅱ SS スギナミンEx
「ふぁぁぁ……ねむ……」
俺は周りに構わず大きなあくびをすると机に突っ伏した。
今日の午前の授業は古典やら数学やら、眠くなる授業ばかりだった。
必死に起きているのだが、もはや限界……。
「どうした、桜内。お疲れのようだが？」
早速、話しかけてくるヤツがいる。杉並だ。
「いや、ただの寝不足だ」
「ははは。鍛え方が足りないんじゃないか、桜内」
「そうかもな」
ん？こんなやり取りを前にもやらなかったか？
「そ～んな桜内君に朗報だ。これを飲んでみないか？」
コトリと、机に何か置かれた。
遮光性の高い、ドリンク剤などに使用するような茶色い小瓶だった。
どこか見覚えのある小瓶だった。
というか、俺の記憶にばっちり刻み込まれていた。忘れようもない。
「お前、また変なの用意したのか？」
「変なのとは失敬な。ちゃんと効能を考えて作っているのだぞ」
「誰のために作ってるんだよ」
「建前は全人類のためだが、間違いなく自分のためだろうな」
あごに手を当てて語る杉並は、さらりと壮大な話を始める。
「この『スギナミンEX』が全世界に出回れば、今以上に混沌とした地球が～」
今回はEXときたか。相変わらずパクリなネーミングは変わってないのな。
俺は地球レベルでどうこう言っている杉並の話を一向に無視した。
隣の席の杏に助けを求めようとしたが、杏はさっきの授業中から一足先に
夢の世界に旅立っている。俺も追いかけるか。
「間に合ってる、他を当たってくれ」
杉並の解説を適当に聞き流し、俺は机に突っ伏した。
「ふむ、そうか。仕方ないな。おぉ、ちょうど良いところに朝倉妹が」
「なに！？」
杉並は由夢にそいつを飲ませるつもりか！？
俺は伏せていた顔を持ち上げる。
「おはよう、『兄さん』」
にやりとした杉並の顔が目の前にあった。
直後、俺の口に瓶が差し込まれる。
「うご」
やられた、と思ったときにはもう遅かった。
「24時間戦えますか～～？」
戦えねぇよ！
前回はねっとりとした液体だったが、今回はそれに炭酸が加わっている。
飲みにくい上に炭酸だ。当然のように咳き込む俺。
「げほげほ。す、杉並…てめぇ」
「飲んだか？飲んだな。よし、今回はレポートは要らん。ただし3日間拘束するぞ」
「絶対に嫌だ！」
ビシッ！
「ぐはあっ！」
俺は軽くツッコんだつもりだったのだが、杉並は10mは吹っ飛んだ。
「あ……」
学習しないのは俺も杉並も同じだった。
ただ、今回はその威力が倍になっていることは理解できた。
ちなみに、杉並は本気で怪我をしたっぽいので、水越先生の
管理下の元、保健室のベッドにくくりつけてある。
まゆきさんに見つかったら終わるな、アイツ。
さて午後の授業も終え、放課後。
素直に自宅に引き篭もって効果が切れるのを待とうかと思ったが
商店街を通って帰ったのが運のつき。
「あ！義之くんだ。お～い」
手を振って大きい声で呼んでくるななか。
周囲の視線がななかに集まる。
ななかは俺に近づくと、俺の腕を取って抱え込んだ。
相変わらず、周りを全く気にしないスキンシップ。
周囲の視線が殺気に変わったのが、はっきりと分かった。
「こら、ななか。もう少し離れなさい」
「え！？」
俺は軽く手を振り解いたつもりだったのだが、ななかは
弾き飛ばされるように俺から離れる。
いけね、今の俺は危険人物なんだった。
「よ、義之くん！ちょっとそれはヒドいんじゃない」
何とか転ばずに持ちこたえたななかは頬を膨らませて怒る。
「悪い」
俺は手を合わせてななかに謝った。今のは明らかに俺に非がある。
「今日の俺は、そのなんつーか、触るとマズイ」
「言ってる意味が良く分からないよ？」
「その、話せば長くなるんだけどな」
簡単にことの経緯を話すと、ななかは楽しそうに笑った。
「なるほど。なんか面白そうだね」
「今の話のどこにおもしろ要素があった？」
そんな答えを出したななかに反感の視線を送るが、ななかはお構いなしだ。
「んー、強いて言えば全部？」
「ばかにしてるだろ」
「被害妄想だよ～」
ななかはひらひらと手を振ると、改めて俺の腕を掴んだ。
「だからななか。そういうことはやめてくれって」
「私がリードしてあげるって。義之君は私の話に付き合ってくれればいいの」
「しょうがないな」
ヘタに力を入れると、ななかに怪我を負わせてしまう可能性があるので
俺はななかにされるがままになっていた。
まぁ、そういうのも悪くないな。
数時間後。
前言撤回。
日も傾き夜の帳が降り始めた頃、ようやくななかに解放された。
「今日は楽しかったよ、義之くん」
満足げに笑うななか。
ななかに手を引かれ、2時間ばかり連れまわされた。
どの店も明らかに女の子向けの店で、俺は非常に居心地が悪かった。
まぁ、ななかみたいな子と一緒にいられるのが嬉しくないわけではないが。
「ところで義之君、薬の効果ってもう切れてるのかな？」
「どうだろう。前回もこのくらい経ったら切れてたしな」
俺は軽くジャンプしてみる。
びょい～ん。
5mくらい跳べた。眼下でななかがぽかんと俺を見上げている。
そして落下。
俺は悟った。すまん、ななか。
もう少し付き合ってもらうことになりそうだ。
とりあえず、救急車を呼ぶ準備を頼む。
～あとがき～
ということで今回は「スギナミンEx」です。特許申請したいです。
このシリーズは今回で終わりかなぁ。
駄作で恐縮。
2006.11.22