D.C.Ⅱ SS 杏の誕生日記念SS
「温泉、露天風呂。どれも良いわねぇ」
茜が旅行雑誌を見ながら溜息をついた。
昼休み、俺のすぐ隣の杏の席で雪月花たちは旅行話に花を咲かせていた。
間もなく付属の卒業を迎えるに当たり、卒業旅行と洒落込もうというわけだ。
「お正月に行ったスキー場、私はもう一回行ってもいいかなぁ」
そうだな、あそこは絶景ポイントもあるしな。
小恋のセリフに俺は心の中で相槌を打つ。
「でも今年こそ鬼殺し山に行きたいよね」
「私は別にどちらでも構わないけど」
茜は別のスキー場の名前を挙げていた。
正月に行ったスキー場とは別の候補地だ。
それに対し、杏は適当に相槌を打っている。
「義之君はどう思う？」
「んあ？俺か？」
いきなり話しかけられて情けない返事をしてしまった。
「そ。スキー場行くなら年末に行ったところか、新しく行くところか」
「俺は同じところでいいと思うな。料理も美味いし、露天風呂も良かった」
「そうだよね、私も気に入っちゃったよ」
同じ意見の小恋も賛同する。
「3月末に行こうかと思ってるんだけど、義之も来るでしょ？」
「んー、微妙」
杏に言われたが、とりあえず返事を濁しておく。
年末、いきなりスキーに行くことを話したら朝倉姉妹にいい顔されなかったしなぁ。
音姉なんかは卒業祝いとかで色々企画してくれそうだし。
「えー、なんでなんで？またみんなで行こうよ～」
「音姫先輩と由夢さんが一緒でもいいよ♪」
不満がる小恋と、俺が渋る理由が分かっている茜。
朝倉姉妹が付いてきたら卒業旅行じゃなくなるじゃないか。
さすがにそれは勘弁して欲しい。
「まぁ考えておいて。答えは急がないから」
杏の言葉に頷いた。
「楽しそうだな、なんの話だ？」
俺たちの会話に渉と杉並も加わってくる。
「えっとね、卒業旅行に行こうと思うんだけど、どこがいいかなって」
小恋が簡単に説明した。
「俺は新しい宿泊場所が好ましいがな」
「やっぱそうだよね～」
杉並の言葉に新スキー場を提案する茜が同意する。
「やはり旅行先では攻略要素がある方が楽しいからな」
「こうりゃく？」
茜は首を傾げる。俺と渉は目を逸らした。
「お、俺はこの前行ったスキー場でいいと思うけどな」
話題を戻そうとした渉だが
「どうせ渉は混浴目当てでしょ？」
杏が速攻で突っ込んだ。
「ぐっ」
そして図星だったらしい渉。
「だってよう、混浴っつってもなんの浪漫もなかったんだよう。なぁ、義之？」
涙ながらに同意を求めてくる渉。
「え？う……」
視界に杏の顔があり、とっさに誤魔化せなかった。
首を縦に振らなかった俺に渉が食って掛かかってくる。
「んな！？お、お前！誰かと一緒に入ったのかよ！」
「ま、待て。俺は別に何も」
興奮して掴みかからん勢いの渉をなだめようとしたが、
「わたし」
杏が手を挙げた。期待通りの展開ありがとう、杏。
「だ、だからあれは偶然……」
俺は抵抗をこころみるが
「もう、義之が勝手に入ってきたんじゃない。ぽっ」
わざとらしく頬を染めて話す杏。さすが演劇部、ってそれどころじゃねえ！
「『ぽっ』じゃねぇ！あ、あれは……はっ！」
周りの視線が俺たちに突き刺さる。
「うそ！杏ちゃんそれ聞いてないよ！」
「義之、お前いつの間にそんなうらやましいことを！」
「ほう？」
「義之！？それホントなの！？」
杏に向けられたセリフは茜だけで、他はなんか俺が悪者っぽく聞こえる。
「そうよ。義之と入れ違いになった、って話したけどその時一緒だったの」
「なるほど。あの時ね、うんうん覚えてるよ」
茜が納得したように頷いた。
「それに、一緒のベッドで寝たでしょ。あのとき私、とても安心できたわ」
「だぁー！それ以上話すな！」
「うわ、義之君てば否定しないよ」
「え？え？えぇぇ？ほ、ホントなの杏！？」
楽しそうに笑う茜とおたおたする小恋。
話がどんどんマズイ方向に進んでいく。
「杉並、そのときの写真くらい収めてるんでしょ？」
「現像はしていないが、データならな」
ってか、あるのかよ！？
「プライバシーに関わる部分だからな、本人たちの了承なしに公開は出来ないが」
杉並は学ランのポケットからデジカメを取り出した。
「私は構わないわよ。多数決なら半数以上になるから可決ね」
民主主義いやー！
俺と杏が1つのベッドで寄り添うように眠っている画像が一枚。
こんなにすぐ近くで眠った記憶はなかったが、服装からして当時のもので
間違いないのだろう。
真上からの画像なんてどうやって撮ったんだ？という疑問もあったのだが
このときはそれどころじゃなかった。
「義之～、お前一人で大人の階段上っちゃってたのかよ～」
「アホ、お前が想像してることなんてなにもない！」
泣きついてくる渉を振り払う。
「うふふ。義之、逞しかったわ」
「杏も煽るな！」
結局、騒ぐだけ騒いで旅行の話はうやむやになり昼休みが終わってしまった。
翌日以降、噂が広まったのかクラスメートの俺を見る目が変わった気がする。
ぐっすん。
～あとがき～
日記のタイトルはシリアスちっくですが、微塵もそんなことねっす。
本当は杏に「一緒にお風呂に入った仲じゃない。ぽっ」と言わせたかった。
そんな理由で書き始めたんだけど、結局言うことが出来ませんでした。
それが残念でならないのでリベンジするかも？
なんか卒業旅行SSの布石に見えなくもないですが、今のところ書く予定は
ありませんので悪しからず。
自分もここ最近、旅行なんてしてないので書けっこないさ。
2007.01.29