D.C.Ⅱ SS 雪月花バレンタインSS
Scene
小恋
「うわ、あっつ～」
私は熱くなりすぎたボウルに直接触ってしまい、指で耳たぶを掴んだ。
「失敗しっぱい」
自分で自分に突っ込みを入れつつ作業を再開する。
例年通り、この時期はバレンタインチョコを作っている私。
もう何年になるだろう。
料理を覚えてから作り続けているバレンタインチョコ。
義之と、こう言ったら悪いけどついでに渉君のと杉並君のも。
ラッピングで差が出ないように同じにしてるけど、実は中身は義之の方が
気合が入ってるのはナイショ。
溶け出したチョコに砂糖を加えて味を調える。
義之は男の子だけど、甘いものが苦手なわけではないことは知っている。
学園に和菓子とか、しょっちゅう持ってきてるみたいだしね。
その辺、作り甲斐があるので助かる。
小さい頃は教室でチョコを渡すと、周りのみんなが囃し立てたものだけど
この歳になると誰も気にしない。
むしろこのイベントを楽しんでいる。チョコを渡さない人の方が少ないくらい。
どこかの学園では男の子がチョコを配ってたりするみたいなんだけど
それもちょっとね。
その男の子が可愛い子だったら別なのかもしれないけど。
あー、でも義之にはそういう方向には目覚めて欲しくないな～。
今年は杏と茜も同じクラス。あの2人も義之にチョコ、渡すのかな。
確か去年は渡してなかったはずだけど。
「これでよし、っと」
型に流し込んだチョコレートを冷蔵庫にしまって終了。
あとは明日の朝、少し早起きしてラッピングしよう。
「義之、喜んでくれるかな？」
Scene 杏
「……」
黙々と作業を続ける。
一人で料理をしているわけだし、特に口に出して何かをすることはない。
独り言を呟くのは小恋だけで十分だろう。
お菓子作りは慣れていないものの、無駄に知識があるおかげで
手順だけはしっかり覚えていた。
そういえばカカオが90%とか99%のチョコが流行ってたわね。
いっそのこと100%にしてしまえばいいのに。
あ、でもそうしたらカカオをそのまま食べるのと同じね。
それはそれで面白そうだけど、食材を無駄にするだけの気もするわ。
色々と考え事をするが調理の手は止めない。
ふと、私はいい事を思いついた。たしか、奥の棚に眠っていたはず。
やや埃を被ったブランデーボトル。生産は1975年と書かれている。
およそ30年前ね。封が切られていないから安全だとは思うんだけど。
ブランデーに賞味期限はないと言われているけど、本当に飲めるのかしら。
まぁどうせお腹に入っちゃえば同じだし、熱消毒もするから大丈夫だろう。
湯せんしてあるチョコに少しずつ流し込む。
市販されているボンボンみたいに、チョコの中にブランデーを入れるような
技術はないので、今回はチョコに溶かし込む。
味見はしない。私が倒れてしまったら本末転倒だもの。
朝、バス停で渉に食べさせて安全だったら義之にも渡そう。
Scene 茜
「～♪」
適当に並べられたチョコレートを眺めつつ、いくつかを手に取る。
私が選ぶチョコレートは市販の量産品。
本命チョコを渡す役割は小恋ちゃんだもんね。
もし私がそれっぽいチョコを義之君に渡したら、小恋ちゃんはどんな
反応をするかな？
いつまで経っても進展しない二人の関係に一石を投じるのも面白いと
思うんだけどねぇ。
でも、もし義之君に本気にされちゃったら私も困るし。
もっとも義之君なら悪くないんだけどね。
「この辺でいいかな。お返しに期待しちゃおう♪」
結局、私は無難なチョコを3つ手にしてレジに向かう。
一応3種類のチョコレート。義之君と渉君と杉並君の分。
どれも特別な意味はない。
朝、行き会った人から順に手渡すことにしよう。
私がいくら頑張ったところで攻略対象外なんだもの。
はぁ……私にもいい人、現れてくれないかなぁ。
～あとがき～
茜さん、チョコレートは不○家以外でお願いします（笑）
なんか違う作品のキャラが話題に出ているような気がしますが仕様です。
とりあえず俺は杏のチョコなら、身体がどうなっても食べる。
2007.02.13