D.C.U SS お姉ちゃんのリボン その3

「えぐっえぐぅ……」
その時、私は泣いていた。これは夢、幼いころの夢だと自覚できる。
「どうしたの、由夢ちゃん?」
お姉ちゃんが私と同じ目線までしゃがんで声をかけてくれた。
幼い私は落としてしまった飴を指差す。すると、また涙が溢れてきた。
それを見てお姉ちゃんは、やれやれといった感じに苦笑した。
「仕方ないなぁ、じゃぁこれを食べて元気を出して」
そう言うとお姉ちゃんは付けていたリボンの端を少し千切って、私の手に乗せた。
「リボンなんて食べられないよ」
「そんなことないよ。お姉ちゃんのリボンは特別なんだから」
お姉ちゃんはもう一切れ、リボンを千切るとそれを自分の口に運んだ。
「弟くんも美味しいって言ってくれたから。絶対に大丈夫だよ」
「……」
お姉ちゃんの口から出てきた『弟くん』の言葉に反応する。
当時も今も、一番説得力のある言葉かもしれない。
「今日のリボンはピンクだからイチゴ味だよ」
「本当?」
「うん、食べてみれば分かるよ」
私は恐る恐るそのリボンを口にした。
イチゴの甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。
「ほんとだ、あまい」
「ね、美味しいでしょ?」
お姉ちゃんの笑顔が印象的だった。


がばっ。
私は上体を起こした。
周りをきょろきょろ見回す。時計は……午後3時を指していた。
少し眠っちゃったんだ、私。
「それにしても、また……ゆめ」
今回は未来を写す夢じゃなくて、過去にあった夢だと思う。
私はまだ幼かったし、頭の片隅にあんな駄々をこねた記憶もあった。
そのときにお姉ちゃんに慰められた記憶も。
ただ、リボンを口にした記憶はない。
「何かふつーにリボン食べてたよね、私」
思わず頭を抱えてしまう。
あのリボンは食べられるのか。いや、きっと夢の一部なのだろう。
夢だけに突っ込みどころが満載だ。
ただの過去の記憶の夢なのか、それともこれから起こりうる夢なのか。
私は今後のことを考えると、少し憂鬱な気分になった。


さて、今日はお姉ちゃんが夜にさくらさんとお出かけするらしい。
夕飯の準備はして行ってくれると言っていたので、私はのんびり過ごした。

夕方、4時を回ったころ、部屋にお姉ちゃんがやってきた。
「由夢ちゃん、私そろそろ出かけるね」
「え?まだ4時だよ」
私は時計を確認する。間違いなくまだ時計は4時を指している。
「うん、さくらさんが早く出るって。帰りはたぶん、10時を過ぎると思うからよろしくね」
「分かった。いってらっしゃい」
まぁ、別に引き留める理由もない。
「うん、行って来ます。晩ご飯は冷蔵庫に入れてあるから、後で温めて食べてね」
「はーい」
お姉ちゃんを見送ると私はまた部屋に戻ってゴロゴロしながら過ごした。


夜7時を回った。そろそろお腹がすいてきた時間。
今日は兄さんも杉並さんたちと外食をしてくるということで
久しぶりに完全に一人の夕食だった。
私はキッチンに入ると、さっそく冷蔵庫の中を覗きこむ。
「今日のご飯はな〜にかな〜♪」
寂しいのを紛らわそうと、わざとらしく妙な鼻歌を口ずさむ。
が、冷蔵庫を開けたとたん私は固まった。

ばたん。

すぐに冷蔵庫のドアを閉じた。

ちょっと信じられないものが冷蔵庫にあったような。
もう一度私は冷蔵庫の中を見る。
冷蔵庫の中には飲み物と調味料以外、それしか入っていなかった。

ばたんばたんばたん。

何度冷蔵庫のドアを開け閉めしても、もちろん中が変わることはない。

私は悲しくなった。

orz ←絵文字にするとこんな感じ

白いお皿に乗っているピンクのリボン。
ラップがかぶせられ『由夢ちゃん』と張り紙がしてあった。
お姉ちゃんの言葉が思い出される。
『温めて食べてね』
電子レンジにかけるの?
つまりこれを食せ、と申しますかお姉さま。

orz ←もう一回こんな感じ

夢で食べさせてくれた本人がいないのだから、今日は安全な夢だったと
思っていたが甘かった。
お姉ちゃんはインスタント食品を好まないので、カップラーメンとかの
買い置きは一切ないはずだ。
芳野家に行けば何かあるかも知れないけど、勝手に人の家の食べ物を
取りに行くほど私も無神経ではない。
そして私は料理ができない。選択肢は限られてくる。

外食、という手もあったがこれが冷蔵庫に残ってたらお姉ちゃんは
どんな顔をするのだろう。
きっと凄く悲しそうな顔をするに違いない。
「これ、食べるの?」
ラップを取ってみると、夢と同じでなぜかイチゴの甘い香りがした。
く〜。
私のお腹は正直で、その香りにすぐに反応した。
背に腹はかえられない。
とりあえずレンジにかけてみる。温めてみた。
2分くらいでホカホカになったリボンが出来上がった。

湯気を立てているリボンっていう、見た目を気にしなければ美味しそうな匂いがする。
リボンの生地が手で切れるのか、と思ったがあっさりとリボンは千切れる。
繊維に沿って切れるそれは、さながらスルメイカのような……。
思わず、もう一度匂いをかいでしまう。端から見たら挙動不審である。
ダメもとで私はその一切れを口に運んだ。

「あ、案外美味しいかも」
見た目はともかく、イチゴを生地に練りこんだパンのような味がした。
歯ごたえはグミみたいに弾力がある。
なんというか、不思議な食べ物だ。
ただ、どこか懐かしい味のするリボンだった。


あれ?私、馴染んでる?



〜あとがき〜
アン○ンマ○は君さ〜♪
お姉ちゃんのリボン(食用)は今日も大活躍。
リボンは毎朝、お姉ちゃんの手によって作られているのでした(嘘)


これまでのお話はプロフィールのリンクからご覧ください。


2006.10.27

D.C.U SS一覧に戻る
TOPに戻る