D.C.Ⅱ SS お姉ちゃんのリボン その４
ギョギョギョギョ。
「んー、うるさい……」
耳障りな音に私は目を覚ました。重い身体をむっくり起こす。
時計を確認するとまだ朝の7時。
せっかくの日曜日だっていうのに、こんな朝から工事しなくてもいいじゃない。
ギョギョギョギョ。
音のせいでまだ覚め切っていなかった頭もはっきりしてくる。
そしてやけに音が近いことに気が付いた。1階から聞こえてくる？
「うちで工事、してるの？」
少しだが、家も揺れているようだった。
寝なおすのも難しそうなので、とりあえずジャージに着替えメガネをかける。
部屋のドアを開けると、音は更に大きくなった。
やっぱりうちで工事しているみたい。
でも、お姉ちゃんもおじいちゃんもそんな話はしてなかったはずだけど……。
階段を降りるとリビングを覗き込む。
更に音が近くなった。キッチンを工事しているようだ。
リビングを通り抜け、キッチンを覗き込む。
「…………」
言葉が出なかった。
ガス台の手前に立つお姉ちゃんの姿を確認した。
そして、お姉ちゃんのリボンが奥の壁を削っていた。
がばっ。
私は上体を起こした。
周りをきょろきょろ見回す。時計は……午前6時を指していた。
窓の外はまだ薄暗い。
もう何度目になるだろう。思い出したくもない記憶ばかり。
今回もやはり、お姉ちゃんのリボンは。
今日は日曜日なので早起きする理由がない。
しかしあまりの夢の内容に目が覚めてしまい、寝なおすのも難しそうだ。
たまには早起きするのもいいか。
私はベッドを抜け出すと、シャワーを浴びに向かった。
ひんやりとした空気の中、熱いシャワーを浴びる。
お湯と一緒に眠気も流されていくようだ。
なんて詩的なことを考えてみて、らしくないな、などと思ってみたり。
と、そんな良い気分をぶち壊すように
ギョギョギョギョ。
今日、一番聞きたくない音が耳に入ってきた。
あはは、こんな朝から？
でも夢の中でも私が起こされたのは朝の7時頃だった。
おそらく今はちょうどそんな時間なのだろう。
と、シャワーから出てくるお湯が冷たくなってくる。
そして、ほんの数秒の間に冷水に変わった。
「きゃあ！」
思わず悲鳴を上げてしまう。
不幸なことに朝一なので湯船にお湯は張っていない。
私はすぐさま浴室を出てバスタオルに身を包む。
12月も半ばを過ぎ、朝の冷え込み厳しいこの時期に冷水を浴びてしまったのだ。
ぶるぶるぶる……さ、寒い。
「誰か、いるの？」
いつの間にか工事の音はやんでいた。
ドアの隙間からお姉ちゃんが恐る恐るこちらを覗いている。
お姉ちゃんは私がまだ寝ていると思っているのだろう。
「由夢ちゃん？」
「う、うん」
「急に悲鳴が聞こえたからビックリしたよ～」
お姉ちゃんは相手が私だと分かると安心したように一息ついた。
「それで、何かあったの？」
「うん、シャワーを浴びてたらお湯が急に水になっちゃって」
シャワーを指差して、お姉ちゃんに簡単に説明する。
「あ、ごめんね。さっき水道の工事を始めたばっかりなんだよ」
ぽむ、と手を打ってお姉ちゃん。
「由夢ちゃんがまだ寝ているうちに済ませちゃおうと思ったんだけど
もう起きちゃってたんだね」
「う、うん。なんか目が覚めちゃったから」
工事の夢を見て起きちゃいました、なんて言えるはずもなかった。
「ごめんね、もう2時間くらいかかると思うから、また後にしてくれないかな？」
「うん、分かった」
浴室から出て行くお姉ちゃんを見送る。
と、その後姿に違和感を覚えた。
お姉ちゃん、リボンしてない？
私が声を掛ける前にお姉ちゃんは行ってしまう。
くしゅん。
「さむ……」
バスタオル一枚で追いかけるわけには行かない。
私は手早く着替えると、お姉ちゃんの後を追った。
追うんじゃなかった。
キッチンに入ると、お姉ちゃんはリボンを操縦していた、
飛行機の操縦桿みたいな感じで操っている。
リボンを前に傾ければ先端が壁を削り、右に傾ければ先端も右に傾いた。
なんてゆーか、もう突っ込む気力もない。
お姉ちゃん、水道管工事なんてできたんだ。そっちの方が驚きだった。
「あ、由夢ちゃん。危ないから下がっててね」
一切の防具をつけていないお姉ちゃんが言うが説得力はない。
しかし、私は軽いめまいを覚えたので早々に撤退した。
2時間後、キッチンを覗くと何事もなかったように綺麗に片付いていた。
やっぱりお姉ちゃんは凄い人だと思った。
～あとがき～
バスタオル姿の由夢を兄さんとは遭遇させません。
そんなお約束、誰がさせるものか。
まぁ朝倉家の出来事だしね。
は、純一って手があったか！？
2007.01.11