D.C.Ⅱ SS クリスマスっぽいの Vol.3.5
結局、こうなった。
由 杏 茜
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音 義 恋
「あの、とても不機嫌そうな由夢さんがいらっしゃるのですが」
こたつの一角からほとばしる黒いオーラを前に、俺は冷や汗をかいていた。
『ごごごご』って擬音が聞こえそうだ。
楽しい楽しいクリスマスパーティの始まり～。
「それじゃ弟くん、私が取り分けてあげるね」
早速、音姉が俺の面倒を見たがる。
というかさ、いつまでも子ども扱いしないで欲しい。
「や、音姉。俺自分でやるから」
「いいのいいの、お姉ちゃんに任せて」
音姉、聞く耳持ちません。
「ほら、小恋ちゃん。負けてるよ」
「……」
「でも、でも……」
雪月花がそんなやり取りをしているのが目に入る。
いろいろな画策があるようだが、俺はあまり気にしないことにした。
30分後。
どたん。
由夢が唐突に机を叩いて立ち上がった。
「どうした、由夢？」
みんなぽかんとしてしまったので、俺が最初に口を開いた。
「席換えをしましょう」
今の座席がよっぽど不満だったのね。
で。
恋 音 由
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杏 義 茜
まぁ、それとなく予想は付いていたのだが。
黒いオーラが赤く燃え上がり、おまけに般若も見えた気がする。
いや、こればかりは仕方ないだろう。
じゃんけんで負けたのは由夢自身の責任だ。
音姉と茜が上手く由夢をいなしているため均衡が取れているが
少しでも刺激を加えると爆発しそうである。
「はい、義之くん。お酌してあげる」
茜がどこからか持ち込んだカクテルを俺のコップに注ぐ。
「義之、これも飲んで」
かたや杏は日本酒だ。
いつかの学園祭を髣髴とさせる光景だな、こりゃ。
あの時はノンアルコールだったけど、今回は本物だ。
「兄さん、お酒は二十歳を過ぎてからですよ」
由夢がジト目で釘を刺す。
「大丈夫よ、私たち年齢詐称は得意だから～」
茜が手をひらひらさせて笑った。いやそれ、問題発言だから。
とはいえ今日はクリスマスだ。少しくらいの酒なら許容範囲だろう。
俺は杏の差し出した日本酒から先に口をつける。
甘口で飲みやすい日本酒だった。
この飲み口だったら、どんどん酒が進んでしまいそうだ。
「まだまだありますからね～」
茜は俺以外にも酒を振舞っている。
っていうか、他の皆は飲めるのだろうか。そこだけが気がかりだった。
1時間後。
音姉と小恋は早々にダウンした。
由夢はかなり頑張ったほうだが、ついさっき陥落した。
俺もそろそろ苦しいかもしれない。
しかしなんだ、俺の両隣に座る酒豪どもは。
普段、色白の杏からすれば多少顔が赤いもののまだまだ
いけそうな雰囲気を持っている。
茜は顔が真っ赤だが、こっちも全然平気そうだった。
「んー、食べるものがなくなっちゃったね。どうしようか」
茜が最後のポテトチップスを口にして言った。
「ただいま～」
ちょうどその時、玄関から明るい声がする。
「おー、やってるね。私も混ぜて欲しいな～」
さくらさんが帰ってきて居間に顔を出した。
お土産で持ってきたマス寿司を広げ席に着くさくらさん。
どこ行ってきたんだ、この人。
「雪村さん、私にもちょうだい」
俺たちが酒を飲んでいることを咎めるどころか、一緒になって
呑みだす始末。教育者としてどうなのだろうか。
「やっと義之くんもお酒を飲める歳になったんだね～」
いえ、正確に言うとまだなってないと思います、たぶん。
しみじみと話すさくらさんの目にはうっすらと光るものが。
さらに1時間が経過。日付が変わろうとしていた。
「そろそろお開きにする？いい時間だよ」
まだまだ余裕そうなさくらさんだが、時計を見て気になったようだ。
「んー、じゃぁそろそろお暇しようか、杏ちゃん」
「そうね、このあとも重要だし」
まだ生き残っている二人は帰り支度を始める。
しかしその前に戦没者の慰霊をしなければならない。
「じゃぁ私と杏ちゃんで二人を見るから、義之くんは小恋ちゃんをお願い」
そういって音姉と由夢の面倒を見始める杏と茜。
さくらさんは後片付けを始めていた。
必然的に俺が小恋の面倒を見ることになる。
「おーい、小恋～。起きてくれ～」
ぺちぺちと頬を叩く。
「んー、もうちょっと寝かせてよ、お母さん」
誰がお母さんか。寝ぼけてやがる。
「ぬ～」
小恋はあまり寝起きが良くないのだろうか。少し苦労しそうだ。
「しょうがないなぁ、小恋ちゃんは。義之くん、小恋ちゃんをおぶってあげて」
ちっともしょうがなくなさそうな茜。それが狙いか。
「よっと」
小恋を背負う。お世辞にも軽いとは言えないが重くもない。
「はい、背負ったね。んじゃ上からコートかけるね」
親切というかおせっかいというか。茜が面倒を見てくれている。
「私と茜は二人を送ってから帰るから、小恋は任せたわ」
杏と茜が音姉と由夢を抱えて朝倉家に向かった。
俺も月島家に向かうために家を出た。
いい具合に冷え込んだ冬の夜だった。
「うー、さむい」
小恋が寒がってコートの中に潜り込もうとする。
「小恋、そんな動くな。落ちる」
「……はえ？」
情けない声を上げて目を覚ます小恋。
「ようやくお目覚めですが、お姫さま」
「あ、あれ……義之、わたし……」
まだ寝ぼけているのか、状況がつかみきれていないようだ。
「わ、わ、なんで義之が私をおんぶしてるの？」
ホント覚えてないんだな、こいつ。
「小恋が起きないからな、自宅まで搬送中」
小恋が酔いつぶれたこと、杏と茜が俺に送れと指示したことなどを
一通り話した。
「そっか、ありがとう義之」
「別に」
素直に感謝されるとどこか照れくさい。
「義之の背中って温かいね」
「別に俺が特別ってワケじゃないだろ」
「んー、でもあったかいよ」
小恋は俺の首に絡めていた腕に力を込める。
「小恋、苦しい」
「そこまできつく締めてないから大丈夫でしょ」
まぁ、その通りなんだけどな。なんか言わないと落ち着かない。
それから小恋の家に着くまでお互いに無言だったけど、
それは気まずかったとかじゃなく。
やっぱり照れくさかったのだろう。
～あとがき～
少し長いお話になってしまいました。
まぁクリスマスのお話はこんなもんです。
由夢の待遇が悪いですが、別のSSで主役級の仕事を
してますので、今回はこのくらいで勘弁。
May god bless you.
2006.12.25