体育祭　午前の部


100mハードル（女子）

Ａ組・小恋、Ｂ組・白河、Ｃ組・茜

「最高の組み合わせだけど、明らかに人選ミスね」
「そうだな」
俺と杏は出場メンバーを見て落胆した。
言うまでもなく白河さん有利の組み合わせだ。
しかし、うちの学年きっての綺麗どころが勢ぞろいとはな。
「でも、目の保養にいいんじゃない？」
「……お前が言うな」
図星を指され、妙な間ができた。
「照れちゃって。それとも私が飛んだ方がいい？揺れないけど」
「少しは恥じらえ」
やはり杏は普通の女の子として見ると、痛い目にあいそうだ。


障害物競走（男子）
A組・杉並、B組・渉、C組・男子A。

号砲と共に、完璧なタイミングでスタートを切った杉並。
「こりゃ鉄板だな」
俺は障害物競走に参加するメンバーの冥福を祈った。
最初の障害、ネットくぐり。
杉並以外は全員そこで脱落。ゴールすることすら許されない。
その被害者には渉も含まれていた。南無。
杉並は悠々と小走りしながら他の障害物を乗り越えていく。
次のレース以降、A組以外のレースコースにあらゆる
トラップが仕掛けられていることに気付く。
特にB組に対するトラップは見てて気の毒だった……。
俺が走者として出たときのB組には爆発物らしきものが仕掛けられていた。
火薬はマズイだろ、火薬は。


借り物競争（女子）

第1走者　　A組・女子A、B組・女子B、C組・杏。
第2走者　　A組・女子C、B組・女子D、C組・茜。
第3走者　　A組・小恋、B組・女子E、C組・女子F。

「ん？杏のやつ、こっちに向かってきてないか？」
「そのようだな」
借り物競争を観戦していた俺たちに向かって杏が駆け寄ってくる。
「義之、あなたを借りるわ」
「お、おう」
杏は俺の手をとるとゴールに向かって走り出す。
そのまま俺と杏は1位でゴールを駆け抜けた。
担当の水越先生が借り物の確認をする。
「ふむ、まぁ合格だろう。1位のところに行っていいぞ」
俺と杏は揃って『1位』とかかれた旗の元に向かう。
「で、何を借りて来いって書いてあったんだ？」
「問題児」
「……（汗）」
水越先生、あなたもOK出さないでくださいよ。

続いて、次のレースで茜が由夢を連れてきた。
「私の立場からは何とも言いがたいが、間違いないのか、花咲？」
「はい、もちろんです」
判断に困っている水越先生に茜ははっきりと答えた。
「まぁ連れてきた本人が言うのだから、間違いはないのだろう。合格」
「やたっ。由夢さん、ありがとう！」
茜は由夢の手をとり、上下にぶんぶんと振る。
「はい。それは構いませんけど、なんて書いてあったんですか？」
「ブラコンだよ」
「……（汗）」
茜、その勘違いは非常にマズい。
「兄さん、クラスメートに私のこと、どう話してるんですか？」
怒りの矛先が俺に来た。逃げ出せない。俺ぴんち。

と、さらに続いて小恋が肩を落としながらゴール。
借り物競争なのに、その手には何も持っていない。
最下位の旗の下に小恋は一人で座った。
何事かと、俺たちは小恋の方を見る。
さすがに由夢も小恋が気になったのか、振り上げかけた拳を下ろした。
当の小恋はこちらの視線に気付くと、泣きそうな顔で苦笑していた。

クラスに戻ると早速、小恋に話しかける。
「小恋、なんでビリだったんだ？何も借りて来ないんじゃ意味ないだろ」
「そ、そうなんだけど〜」
せわしなく手を振り振り『私は無実です』を体現している。
「で、なんて書いてあったんだ？」
たまに極端に無茶な注文もあるからな、この体育祭は。
「笑わない？」
「内容によるな」
「えう〜」
はっきりしない態度でもじもじする小恋。
「えっとね、『男子の体操着』って書いてあったの」
「なんだ、そのくらい」
簡単すぎる借り物の内容に、俺は笑うどころか呆れた。
「そのくらい、じゃないよ〜。月島的には超高度なミッションだよ」
「俺……は杏に引っ張り出されたから無理か。杉並か渉ので良かったんじゃないのか？」
「む、無理だよ〜。義之のならともかく他の男子の体操着は触れないよ〜」
顔を赤くして照れまくる小恋。よく分からん。
「なんで俺のなら大丈夫なんだ？」
「な、なんでもないよ！今日は運がなかったことにするよ」
いじける小恋の気持ちはやっぱりよく分からなかった。


パン食い競争（女子）

「なんつーか飛び跳ねてますなぁ、桜内さん」
「眼福ですなぁ、板橋さん」
「この競技を考えた人、神ですなぁ」
「女子にこれやらせる実行委員にも感謝ですなぁ」
「あれがバナナだったりしたら最高だと思いませんか？」
「……犯罪級ですなぁ」
俺と渉は女子が必死にパンに食いつく姿を眺めていた。
その場にとどまって口を開けながらジャンプするもんだから、
ハードルのときとは比較にならないくらい……エロい。
嗚呼、至福。
「変態発見」
パコンパコン。
「いてぇ。委員長、何すんだよ」
「うわ、クラス関係ない俺もかよ」
委員長の手にしていたメガホンで頭を叩かれた。
「頑張ってる女子を邪な目で見ないの！」
怒られたことはさておき、俺と渉の目はどうしても委員長の胸元へ。
俺たちの視線に気付いた委員長は自分をかき抱いて、一歩退がる。
「こ、この変態どもが〜！」
委員長の背後に怒りのオーラが立ち上る。
「渉、撤収！」
「もうすぐ月島の番だってのに……ラジャ！」
俺たちは颯爽と散った。


午前を終え、C組≧A組≧B組と大筋、予定通りの順位である。


〜あとがき２〜
いかんいかん、俺の変態部分が顔を出し始めた。
午前中の競技は個人種目がメインです。
なおパン食い競争は未だに現存する競技らしいです、ちょっと驚き。
次回はお昼休みになるので12時アップ。