月は東に日は西にSS・美琴ちゃんが行く
雲ひとつない快晴の日曜日。
「はぁ、なんで負けちゃったんだろう・・・」
肩を落としてトボトボ歩く美琴ちゃん。いったいどうしたんでしょう？
ガララララ・・・。
「いらっしゃいませ！」
美琴ちゃんが入ったのは、どこにでもありそうなレンタルビデオショップ。
自動ドアから店に入ると店員が元気な声で出迎えます。
美琴ちゃんはその店員の顔を見ることなくビデオコーナーへ向かいました。
「賭けに負けたらHなビデオを買ってくる。DVDでも可」
天文席で暇つぶしにやっていたトランプ。
ただ遊ぶのもつまらない、ということで久住君が、負けたら罰ゲームを提案したのです。
「わー、面白そー」
当初、美琴ちゃんもノリノリでしたが、いざ自分が負けてしまうと・・・。
「ふぇ、なんかあのスペースだけ雰囲気が違うよぉ・・・」
明らかにお子様お断りのアダルトスペース。
少なくとも休日の昼間っから、このスペースに近づく人は少ない。
「はぁ、賭けなんてするもんじゃないなぁ」
トランプで敗戦後、何度ついたか忘れるくらいのため息をここでも一つ。
心底、後悔しているのがうかがえます。
その禁断のスペースに足を踏み入れます。
レジで作業をしていた店員さんが美琴ちゃんをちらりと見ましたが、すぐに自分の作業に戻ります。
まず最初の関門を突破。18歳未満と判断されて、即退場とはなりませんでした。
「18歳以上に見えてるのかな・・・。ちょっと複雑な気分」
美琴ちゃんは小声でささやくと、今回のミッションであるビデオを模索しにかかります。
「うわ、すご・・・」
思わず嘆息をもらす美琴ちゃん。それもそのはず。
見渡す限り、女の人の裸、はだか、ハダカ。
これでもか！と言わんばかりに陳列されるビデオを目の当たりにして、固まってしまいます。
とりあえず手近に合った1本を手にとって見ます。
『世にも巨乳な物語』
どこかで聞いたことのあるようなタイトル。ここはパクリ物のコーナーらしいです。
そのほかにも
『課長 痴魔耕作』
『彼氏彼女の痴情』
『水戸拷問』
なかなか笑えるタイトル名が並んでいます。よく考えてますね（感心）
「うぅ・・・視線がイタイよぉ・・・」
これらのビデオを手にしている美琴ちゃんを見つめる男性陣。
休日の昼間っから、このスペースに近づく数少ない人々です。
「ん〜、女の人もピンキリだなぁ・・・」
少し余裕が出てきたのか、陳列されている品を観察し始める美琴ちゃん。
ぱっと見てカワイイと思える人や、？な人まで様々な種類があることに気付きます。
ただ、美琴ちゃんはそれより奥に進もうとはしませんでした。
眼前に展開されているのは、わずか数十タイトルですが、もうおなかいっぱいの模様。
ちなみに、もっと奥には、もっと偏った嗜好の持ち主のファンタジーゾーンが広がってます。
「よし、これ」
美琴ちゃんが手に取ったのは『マゾの宅急便』。
タイトルからして、そんなにHじゃないだろうと美琴ちゃんは判断したようです。
『マゾの宅急便』を手にしてレジに向かう美琴ちゃん。
「これください」
何かが吹っ切れたかのように、堂々と振舞う美琴ちゃん。
その姿に店員さんも一歩引いてる模様。
レジ操作の際、店員さんと目が合いました。複雑な表情をしている店員さん。
「えと・・・2079円になります」
言われた代金を財布から出し、叩きつけるように置く美琴ちゃん。
ちょっと大きな音が立ったので、店内の注目が自然と集まります。
美琴ちゃんの顔は徐々に赤くなっていきます。
お釣りと商品を受け取ると足早にそのスペースを立ち去りました。
「あ・・・ありがとうございました」
店員さんの声が空しく響きました。
翌日・・・。
「というわけで美琴。例の物をここへ」
薄笑いを浮かべる久住君。今回は悪役のようです。
「ホントに買ってきたの？」
弘司君は今回の罰ゲームに関してはどっちでもよかったのでしょう。
「ちゃんと買ってきたよ」
カバンから昨日勝ったビデオを取り出す美琴ちゃん。
昨日買った状態のままなので、封も切られていません。
「さすがにここじゃマズイな。弘司の部屋でどうだ？」
さすがに学園のカフェテリアで物色するものではないので、場所の変更を提案します。
「ああ、構わないけど」
一行は弘司君の部屋に場所を移しました。
「さて、どんなものを買ってきてくれたのかなぁ？」
久住君はちょっと楽しそうです。
袋を覗き込む久住君。なぜか無言で頷きます。
「なんか、普通のAVっぽいな」
美琴ちゃんもそう判断したように、直樹君もライトなものだと思ったようです。
「で、美琴ちゃんはどんな顔をしてコレをかったのかなぁ？」
言ってることが変態オヤジですよ、直樹君・・・。
「もう、そんなこと聞かないでよ」
顔を赤くして反論する美琴ちゃん。
「直樹、やめときなよ」
弘司君が直樹君を制します。
妙に落ち着き払ってるところがすごいです。
「でわ、さっそく・・・」
ビデオデッキにテープをセットして再生ボタンをON。
一同、絶句・・・。
あとがき
本作に出てくる作品は実在します（笑）
僕は持ってませんよ、ホントに。
「誰が買った」より「何を買った」のほうが興味がありませんか？。