月は東に日は西にSS・直樹君が行く

雲ひとつない快晴の日曜日。
「ったく、なんだってこんなことに」
苛立ちを隠せない表情で道を歩く直樹君。いったいどうしたんでしょう?
ガララララ・・・。
「いらっしゃいませ!」
直樹君が入ったのはどこにでもありそうなデパート。
自動ドアから店に入ると店員が元気な声で出迎えます。
直樹君はその店員の顔を見ることなくあのコーナーへ向かいました。

「賭けに負けたら異性の下着を買ってくる」
天文席で暇つぶしにやっていたトランプ。
かつて美琴ちゃんが味わった屈辱を晴らそうと、今回の罰ゲームのお題は美琴ちゃんが提案。
「返り討ちにしてやる」
勝つ気満々の直樹君も、いざ自分が負けてしまうと・・・。
「くっ、まさかこんな事になろうとは・・・」
後悔先に立たず。

明らかに男性お断りの女性下着売り場。
休日の日中なので、このスペースは結構繁盛しています。
「はぁ、賭けなんてするもんじゃないな」
美琴ちゃんと同じ事を言っていますね。
女性下着売り場では、まずランジェリーに身を包んだマネキンがお出迎え。
その空間に足を踏み入れることが憚られます。
しかし、ここで引いてしまっては男が廃ります。
「引かなくても男が廃るだろうが・・・」
誰に言うわけでもなく、周りを気にしながらその領域に踏み込む直樹君。
勇者です。

途中、同年代と思しき女の娘のグループとすれ違います。
「・・・」
後ろから聞こえてくるヒソヒソ声。
願わくば今の娘たちが同じ学園でありませんように。
祈りを込めながら、直樹君は前に進みます。

「ブラとショーツを買ってきてね」
美琴ちゃんに言われたとおり、ブラとショーツを探す直樹君。
「茉理ちゃんに合うサイズだよ。適当に買ってきちゃダメだからね」
ついでにそんな指示まで出されました。
もちろん直樹君が茉理ちゃんにフィットする下着なんて知りません。
なので、渋垣家の皆さんが就寝後に、こっそり脱衣所でサイズを確認しました。
ヒーローです。

キョロキョロしていると、女性人の視線が突き刺さります。
『なんでここに男がいるのよ』
すべての視線がそう言っているように感じて仕方ありません。
最初に辿り着いたのはショーツのコーナー。
色とりどりのショーツが飾られています。
魅惑の品の数々にクラっと行きそうですが、問題がありました。

「くっ」
ショーツを手に取り、茉理ちゃんの下着のサイズを探します。
近くにいた子連れのお母さんが子供を抱き上げて避難します。
あからさまに避けられています。無理もありませんが。
幸い、茉理ちゃんが身につけていたのと同じサイズのショーツはすぐに見つかりました。
ショーツを持ったままうろうろしていると、更に大変なことになりそうなので、目星を付けておいてブラジャーを探しに行きます。

ブラジャーのコーナーに移動した直樹君。こちらでも色とりどり、多種多様のブラジャーが展開されています。
そしてやっぱり、サイズが一目でわかりません。
やむなくブラジャーを手に取り、サイズを確認していると、近くにいた女性たちもやはり避けるように離れていきます。
その視線は軽蔑以外のなにものでもありません。
店員に通報されないか、ドキドキものです。
探すこと数分、やっと茉理ちゃんがつけているのと同じサイズのブラジャーを見つけました。
あとはレジに持っていって会計をするだけです。
もっとも、それが一番の難関なのですが・・・。

先ほど目星をつけておいたショーツとあわせてレジに持っていきます。
レジで対応しているのは若いお姉さん。
「いらっしゃいませ」
笑顔で対応しているものの、やや頬が引きつっています。
避けているのか、笑いたいのか微妙な表情です。
「2点で5040円になります」
えっと、価格はこのくらいでいいですか?(笑)
慣れた手つきで下着を梱包する店員のお姉さん。
直樹君は代金を支払って、商品を受け取ります。
「ありがとうございました」
本当にありがとうと思っているかは難しいところですね。
手人のお姉さんに見送られ無事、ミッション完了です。
英雄です。

翌日・・・。
「というわけで久住君。例の物をここへ」
勝ち誇った表情で例の物を要求する美琴ちゃん。
カバンから包みを出し、テーブルの上に置く直樹君。
ニタリ笑顔で袋を覗き込む美琴ちゃん。
「おー、さすが久住君ですねー」
わざとらしく驚いてみせる美琴ちゃん。
「どれどれ?」
美琴ちゃんに続いて弘司君も中を確認します。
「ホントに買ってきたんだな・・・」
久住君の苦労をねぎらう弘司君。
今回の久住君の苦労を理解できるのは弘司君だけかもしれない。
「あ、茉理ちゃん。ちょっとちょっと」
「何ですか?天ヶ崎先輩」
ちょうど通りかかった茉理ちゃんに声をかける美琴ちゃん。
「待て!美琴!」
久住君が静止しますが、美琴ちゃんは構わず続けます。
「久住君が茉理ちゃんにプレゼントだって」
そういって、茉理ちゃんに包みを渡す美琴ちゃん。
「直樹が?」
包みを受け取り中を覗く茉理ちゃん。
「これは?」
ジト目で久住君を見据える茉理ちゃん。すでに逃げ腰の直樹君。
「久住君が茉理ちゃんに合うサイズを用意してくれたんだよ」
追い討ちをかけるような美琴ちゃんの台詞。
「なんで私のサイズを知ってるのかなぁ?」
目が笑ってない笑顔の茉理ちゃん。
「さらば!」
久住君は逃げ出しました。
ガシ。
久住君は逃げられませんでした。
「直樹、私とちょ〜っとお話しましょうね」

勇者よ、まだ力尽きる時ではありません。
まぁ、頑張って・・・。


あとがき
下着は重要ですよ?

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