月は東に日は西にSS・直樹君が行く2

雲ひとつない快晴の日曜日。
「ったく、またかよ」
今日も直樹君はつまらなそうに街を歩いています。
ガララララ・・・。
「いらっしゃい!」
直樹君が入ったのはどこにでもありそうな個人経営のスポーツ用品店。
自動ドアから店に入ると店員がワイルドな声で出迎えます。
直樹君はその店員の顔を見ることなく水着コーナーへ向かいました。

「賭けに負けたら私のスクール水着を買ってきて」
天文部の暇つぶしとして恒例になりつつあるトランプ。
お題を最初に用意せず、美琴ちゃんが負けたら無理難題を。というのが直樹君の計画でした。
しかし、残念なことに買ったのは美琴ちゃん。負けたのはもちろん直樹君。
今年から転入してきた美琴ちゃんは学園用の水着を持っていなかったので、それを買ってくるように指示しました。
「弘司が余計なフォローするから」
自分の負けを弘司君のせいにするあたり、直樹君、荒れてます。
2連敗を喫した直樹君。今回も苦労するのでしょうか。
それにしても、スクール水着を買いに行かせる美琴ちゃん。良く出来た娘です。

店内を見回しましたが、客は直樹君だけのようです。
『学園指定用水着』と書かれたボードの下にそれはありました。
蓮見台学園・女子用水着。小さな店だと思っていましたが、品揃えは豊富のようです。
身長が140cmから170cmと幅広く、またバスト、ヒップの大きさにも対応しているようです。
ざっと見ただけでも数十種あるでしょうか。
ハンガーにかけられたスクール水着の数々は、まさに絶景。
・・・だと一部の人々は思うことでしょう。

美琴ちゃんに渡されたメモを見ながらサイズを確かめる直樹君。
背後に立つ気配に気が付くとそこには・・・。
「何を探しているんだい?」
入り口で出迎えてくれた大男の店員さんが立っていました。
「ひっ」
突然声をかけられたので驚く直樹君。無理もないでしょう。
「蓮見台学園の水着か・・・。うんうん、ここの水着は実に良い」
水着の一つを手に取り、勝手に話を進める店員さん。
「最近のスク水は、機能美を求め始めててな。こういった旧型のスク水は少なくなってしまったのだよ」
「は、はぁ・・・」
遠くを見つめるように語る店員さん。付いていけてない直樹君。
「君の目は間違っていない。さぁ、気の済むまで選びたまえ!」
バシバシと肩を叩かれる直樹君。
「いえ、僕にそんな趣味は」
「なぁに、恥ずかしいことじゃない。私だって好きでこの仕事に就いたんだからな」
それはそれですごいと思います、店員さん。
「僕は頼まれて買いに着ただけで」
「ほう、他にも仲間がいるのか。良い哉良い哉」
店員さんは満面の笑みを振りまいてレジに戻って行った。
「まいったな・・・」
きっと会計の時にも何か言われるであろうことを見越して、ため息をついた。

種類が豊富なだけあって、美琴が指定したサイズの水着はすぐに見つかった。
実際に手にとって眺めてみる。
「ふむ」
紺色の厚めの布地。腰の部分がスカートのように見えるのが、旧スクの特徴だそうで。
(これを美琴が・・・)
などと想像していると。
「ふむ、身長160cm、バストとヒップは80cmちょっとのスク水か・・・」
「うわぁ!」
やはり背後に店員さんが立っていました。
驚きのあまり、手にした水着を落としてしまう直樹君。
その刹那。
店員さんの手が颯爽とスク水をすくい上げます。
「こらこら、落としちゃダメじゃないか」
「す、すいません」
店員さんからスク水を受け取る直樹君。
「私としては156cmくらいが丁度いいのだが」
「そんなこと聞いてません」

その後も、スク水に関するうんちくを長々と聞かされた直樹君。
小一時間ほどでようやく開放されました。
明らかに疲れた表情で店を後にします。
「また来てよ!」
店員さんが威勢良く送り出してくれました。
もう来たくない。久住君はそう思うのでした。

翌日・・・。
「というわけで久住君。例の物をここへ」
前回と同様に、勝ち誇った表情で例の物を要求する美琴ちゃん。
カバンから包みを出し、テーブルの上に置く直樹君。
「うん、間違いないね。さすが久住君」
サイズを確認すると、拍手をして称える美琴ちゃん。
「ホントに買ってきたんだな・・・」
同情の眼差しの弘司君。
「あぁ、今回も大変だった」
「ん?何かあったのか?」
直樹君の表情が晴れないことに弘司君が疑問を持ちました。
「あぁ、店員さんが・・・な」
「そうか、大変だったな」
すべてを聞かず肩を叩いて慰める弘司君。
二人の間には深い友情が刻まれました。

更に後日。
「えへへー。ぶいっ!」
水泳の授業の初日、美琴ちゃんがスク水姿を披露してくれましたとさ。

あとがき
スク水もいいと思いますが、狂うほどではありません。
あー、でも委員長のスク水は○。

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