月は東に日は西にSS・直樹君が行く3
雲ひとつない快晴の日曜日。
「ったく、俺ばっかり・・・」
今日も直樹君はつまらなそうに街を歩いています。
ガララララ・・・。
「いらっしゃいませ」
直樹君が入ったのは、どこにでもありそうなビデオショップ。
自動ドアから店に入ると店員が元気な声で出迎えます。
直樹君はその店員の顔を見ることなくビデオコーナーへ向かいました。
「賭けに負けたらHなビデオを買ってくる。DVDも可。」
天文席でお馴染みになった罰ゲーム付きトランプ。
直樹君は早くも3回目の餌食となりました。
「恭子先生さえ来なければ・・・」
敗色濃厚だった結先生のもとにやってきた天使（直樹君は悪魔と思っている）。
「ここをこうしてっと」
恐ろしい引きを発揮する恭子先生。その結果、結先生の逆転勝ちと相成りました。
「久住〜、覚悟はいいかしら♪」
途中参加の割に態度のデカイ恭子先生。容赦ありません。
今回のお題は男性同士の絡みシーン満載のビデオ。
男として、この上ない屈辱の買い物です。（一部の方除く）
とりあえず、お子様厳禁のゾーンへ足を踏み入れます。
レジには誰もいませんでした。好都合？なのでしょうか。
店内には美琴ちゃんのときと同様、数人が見受けられます。
ただ、彼らが見ているのは言うまでもなく女性のHなもの。
残念ながら今回の直樹君のミッションはこれらではありません。
直樹君は美琴ちゃんでさえ踏み込まなかった、更に偏った嗜好の持ち主たちのためのゾーンに進みます。
「何だよ、これ・・・」
本当にこんなものを買う人がいるのか疑いたくなるほど、ピンポイントを狙った作品が陳列されています。
ほとんど人が出入りしないのか、そのコーナーは何故かひんやりしていました。
思ったより広いそのコーナーの一角に目当てのものはありました。
『ゲイ』
捻りも何もありません。その名の通りです。
種類はそんなに多くありませんが、ぱっと見カッコいいと思える男性のジャケットが目立ちます。
国産の物は少なく、主に輸入物がメインのようです。
そのうちの一つを手に取ってみます。
外国人男優が気取ったポーズを取っています。
しかし、なぜか片手に皮のムチ。とってもアンバランスです。
裏を見てみると・・・表現を躊躇うような、とても異様な光景が・・・。
「くっ」
持っているのも嫌気が差している様子の直樹君。
しかし、罰ゲームのため、これを「買わなければいけない」のです。
これらを物色するほど直樹君は勇者ではありませんでした。
手にしたものをそのままレジに持っていきます。
が、そこで足が止まりました。
レジには『お会計はあちらで→』の札が。
矢印の先はもちろん一般レジ。
一般レジを担当しているのはアルバイトと思われる若い女性。
直樹君、ピンチです。
「いくらなんでもなぁ・・・」
さすがにここは踏み止まります。
直樹君は踵を返すと、「普通」のHビデオを物色し始めました。
まぁ、男として正しい選択ではないでしょうか。
しばらく待っていると、ようやく18禁レジに店員が戻ってきました。
それに合わせるように、直樹君もレジへ。
手にしているものが少し増えてるあたり、さすがです。
「ありがとうございました」
無事に会計を終え、戦場を後にする直樹君。
しかし、ここで思いも寄らないことが！
「あ」
「あっ」
ちょうどそこを通りかかったのは、後輩のちひろちゃん。
お互い見つめあう二人。まるでドラマのワンシーンのようですが。
ちひろちゃんの目がちょっとだけ動きました。
視線の先に直樹君が先ほどまで滞在していたゾーンをとらえます。
ちひろちゃんの顔が徐々に赤くなっていきます。
冷や汗タラリの直樹君。
「そ、その・・・ごめんなさい！」
直樹君に頭を下げて走り出すちひろちゃん。
「こ、これは違うんだ」
直樹君の叫びもむなしく、遠ざかるちひろちゃんの背中。
周囲の視線が直樹君に突き刺さります。
「くっ」
直樹君は足早に店を後にしました。
翌日・・・。
「さぁ久住。例の物をここへ」
なぜか天文席に我が物顔で座っている恭子先生。
バッグから包みを出し、テーブルの上に置く直樹君。
「どれどれ？」
品物を確認して満足したような恭子先生。
「うわ、すご」
初めて見るのでしょう、美琴ちゃんは絶句しています。
「さすが久住。オトコねぇ」
「こんなことで感心されたくありませんよ」
不機嫌な表情で嫌味を言う直樹君。無理もないかもしれません。
「あの、仁科先生？・・・あっ」
そこへ恭子先生に用事があったのか、ちひろちゃんの登場です。
が、その席に直樹君がいることに気が付くと。
「えっと、その・・・」
恭子先生の後ろに隠れてしまいます。
いつもの好意的な様子は影をひそめている模様。
「久住。橘に何したの？」
顔は笑っていても、目が笑ってない恭子先生。
恭子先生はちひろちゃんを庇うようなポーズをとります。
「えっと・・・その・・・」
おろおろするちひろちゃん。
「はいはい、変態さんは放っておいて部活に行きましょうね」
更に誤解を深めるセリフを残して恭子先生は行ってしまいました。
「悔しすぎる・・・」
唇をかみ締める直樹君。
後でちひろちゃんに、ちゃんと説明しなきゃなぁ、と思いながら。
更に後日。
処理に困った直樹君は、例の物をを茉理ちゃんに手渡したら、3回殴られました。
あとがき
そろそろ恥ずかしい買い物がなくなってきました。