月は東に日は西にSS・直樹君が行く5

「まったく、これで俺は何回目だ?」
今日も今日とて天文部のトランプで負けてしまった直樹君。
その敗戦記録は他の追随を許さない、もう5回目です。

今回の勝者は美琴ちゃん。そしてお題は蓮美台学園指定の女子用テニスウェア。
これまた相変わらずステキなアイテムをチョイスしてくれます。
「久住君、ごめんね」
一応、形式的には謝ってますが、申し訳なさそうな素振りはまったくありません。
「またあのオッサンの相手もしなきゃいけないのか…」
ここまで読んできた読者の方にもお分かりでしょう。
某スポーツショップには強烈な店員さんがいらっしゃるのです。
おそらく今回も喜んでテニスウェアについて語ってくれるでしょう。

ガララ…。
お店の自動ドアをくぐり、店内に入ります。
「いらっしゃいませ」
おや、今回は例の店員さんとは別の方がレジを担当しているようです。
(ラッキー、さっさと用事を済ませて帰ろう)
レジの担当者が女性なのが少し気になりますが、例の店員さんよりはまともそうです。
早速、注文のテニスウェアを物色にかかります。

蓮見台学園指定テニスウェア(女子用)

そう書かれている棚で、美琴ちゃんのサイズを探します。
直樹君はいくつかウェアを手にとり、しげしげと眺めます。
「むぅ…なかなか」
某店員さんに感化され始めているのでしょうか?その視線は微妙に熱いです。
しかし、いくら探しても、美琴ちゃんの指定のサイズのテニスウェアは見つかりません。

仕方ないので、レジの女性にサイズの在庫の確認を取ることにしました。
「すいません」
「はい、どういったご用でしょう?」
アルバイトでしょうか、まだ若い、おそらく二十歳前後の女性が笑顔で対応してくれます。
「えと、探しているものがあるんですが」
直樹君は探しているサイズがないことを話しました。
女性は一瞬、不審者を見るような目で直樹君を見ましたが、そこはさすが大人。
「在庫を確認しますので、少々お待ちください」
と笑顔で対応し、バックルームへ向かいました。

「お待たせしました」
待つこと数分、少しボーっとしていた直樹君はやや野太いその声に振り返ります。
おや?先ほどの店員さんはずいぶんと逞しくなっています。
「おぉ、君じゃないか」
直樹君が頼んだテニスウェアを手にしているのは、なぜか某店員さん。
やはり今日も出勤していらしたのでした。

「いつも買ってくれてるんだ、これをサービスしよう」
そういって店員さんはアンダースコート(縞模様)とサンバイザーを一緒に入れてくれました。
「縞模様のアンスコは珍しいんだぞ?」
ちょっと自慢げな店員さん。
「い、いや、悪いですよ」
直樹君は慌てて止めに入りますが、残念ながら手遅れ。
「いいんだよ。数少ない同士なんだ。人の厚意は無碍にいちゃイカンぞ」
すでに同士扱いの直樹君。
人の厚意については、時と場合によるでしょう。
慣れた手つきで素早く一式を包みます。
「しかし、最近の学生は金持ちだなぁ。これだって安い代物じゃないのに」
「いえ、そーゆー意味で買ってるわけじゃないんですが」
何か勘違いをしている店員さんに抗議?をしますが
「ん?何か言ったかね」
ちょっと黄昏モードの店員さん。有無を言わさぬ雰囲気を醸し出しています。

「そうそう、この間駅前になんだが…」
ぽむ、と手をたたく店員さん。
「なかなか良い店が出来たんだよ」
店員さん曰く、ブルセラ系の新しい店がオープンしたとのこと。
「良かったら、これから行ってみるかい?」
笑顔でとんでもないことを言い出す店員さん。突然のお誘いに直樹君は困惑してしまいます。
というか、そもそもの目的はテニスウェアを買いに来たことでしたね。
作者も忘れかけておりました。
「いえ、僕はこの後まだ用事があるので…」
丁重に断りを入れる直樹君ですが。
「開店記念セールが今日までなんだよ。これは行くしかないだろう?」
行くしかないかもしれませんが、売ってる物はあんなものや、こんなもの。
「よし、決めた。いま出る準備をするから少し待っててくれ」
言うが早いか店員さんはすぐにバックヤードに引っ込み、ものの数十秒で着替えて出てきました。
ガッシリした体型に見合わず、恐ろしく機敏です。
「さ、行こうか」
さわやかに言う店員さん。連行される直樹君。ちょっと気の毒になってきました。
「悪いね、ちょっと店を空けるよ」
別の店員に一言かけてから店を出ました。

駅前から少し離れた、細い路地にその店はありました。
その店名を誇張するかのような、派手な電飾が光りまくっています。

エロ大王(蓮美支店)

知る人ぞ知る、有名なおとなのおもちゃ屋さんのチェーン店です。
店員さんは躊躇うことなく、店に足を踏み入れます。直樹君の腕を掴んだまま。
直樹君はこの店には、まだ年齢的に微妙なラインでしょう。
しかし、保護者同伴?ということもあり、店の従業員は黙認したようです。
直樹君の助けてオーラには誰も気づきません。

「ほぅ、これは安い」
全品3割引、しかも2万円以上買うとさらに1割引。そんな宣伝文句が書いてありました。
「税込みで19800円というのが卑怯だと思わないかい?」
陳列されている品物はあまり安いものがなく、2万円以上でさらに〜の部分の恩恵を受けるにはは結構な
追加投資が必要になるみたいです。強引な抱き合わせ商法ですね。
「好きなものを見てくるといい」
店員さんはそういい残すと一人で奥のほうに行ってしまいました」
使い道の良く分からない道具に囲まれ、ぽつんと取り残される直樹君。
興味がないわけではないのでしょうが、そういうことを言っていられるほど、彼の心も強くありません。
仕方ないので、もっとも普通?っぽいコスプレ用の服辺りをうろうろして時間をつぶします。

店員さんは結局3時間ほど店の中であれこれ探していました。
店を出るともう夕方。今日もカラスが鳴いています。
意気揚々と店を出る店員さんとは裏腹に直樹君の表情は冴えません。無理もないですが。
そんな店員さんの後ろをついていると
「あっ」
「えっ」
もちろんたまたま通りかかっただけのちひろちゃんと目が合ってしまいました。
今日も、そっち系の店を出てきたところを今回もちひろちゃんに目撃されてしまいます。
以前、書店で18禁ゾーンから出てきたところを目撃されて以来、2回目です。直樹君ツイてません。
「ご、ごめんなさい!」
少しの間固まっていましたが、そう言うなり駆け出すちひろちゃん。
「ま、待ってくれ、ちひろちゃん」
誤解を解こうと追いかけようとする直樹君。が、しかし…。
「ん?どうしたんだい?」
恐ろしいほどの力でガシっと腕をつかまれる直樹君。
ギギギ…と機会がきしむような音でも出てそうな感じで振り返る直樹君。今日も諦めるしかありません。
「せっかくだから、何か食べていこうか。割引で浮いた金で何か奢ろう」
そしてそのまま抵抗も出来ずに連行されていく直樹君。
さながらガタイの良い警官に御用になった犯罪者のように見えなくもありません。

結局、美味しいものをご馳走になったそうですが、直樹君は味を全然覚えていなかったそうです。

「さぁ久住君。例のものをここへ」
勝ち誇った感じの美琴ちゃん。
苦々しげな表情で買ってきたものを差し出す直樹君。
「どれどれ?」
中身を見た美琴ちゃんはあれ?って顔をします。
「あれ?久住君、なんか違うのも入ってるよ?」
「サンバイザーとアンスコはサービスだってさ」
ぶっきらぼうに答える直樹君。
「うん、それはありがたいんだけど、まだ何か封筒みたいなのが入ってるの」
「封筒?」
そんなものを入れられた覚えはありません。
「ちょっと見せてみ」
「はい」
美琴ちゃんから封筒を受け取る直樹君。
ペリペリと封を開き、中身を確認します。
中に入っていたのは何かのチケットのようですが…。
『エロ大王・全品2割引券』


あとがき
や、こういうお店には行ったことないですし、行く気も起きません。
でもこのシリーズの直樹君はいじりやすくて良いです。

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