オトメノナヤミ
「私も美琴さんみたいに胸が大きければなぁ」
「そっかな？私もそんなに大きくないと思うんだけど」
カフェテリアに来ると天文席で茉理と美琴が話をしていた。
ちょっと珍しい組合せかも知れない。しかも話の内容が面白そうだ。
俺は二人に気付かれないよう、天文席から少し離れたテーブルに陣取った。
ここからだと二人の姿は見にくいが話し声は十分聞き取れる。
二人は俺に気付かず話を続ける。
「美琴さん、胸が大きくなり始めたのっていくつくらいからですか？」
「う〜ん、どうなんだろ。気付いたらこのサイズだった？」
茉理は胸が小さいことにコンプレックスを持ってるからな。
美琴のスタイルは、まぁどちらかといえば良い方だろう。
「えー！そんな訳ないでしょ。じゃぁブラ付け始めたのっていつですか？」
「んー、最近だよ？」
「ぶっ」
俺は思わず吹き出した。何事かと俺に注目が集まる。
幸い向こうの二人には気付かれていないようだった。
そこへ顔見知りのウェイトレスが話し掛けてきた。
「今日は天文席じゃないの？」
名前は知らないが、たしか学年は同じだったと思う。少女Aとしよう。
「なんか面白そうな話をしてるからな。様子見」
「ふ〜ん。それで注文は？」
茉理と同様、天文部に対してはあまり接客態度が良くない。
伝統なのだろうか。
「アイスコーヒー」
「かしこまりました。あと、盗み聞きは趣味悪いよ」
余計な一言を付け足すと、少女Aは一礼して厨房へ戻っていった。
「そんな。じゃぁ大きくなるまで放っておいたんですか？信じられない」
「そうかな。誰にも会わない休日とかはブラ付けてないし」
「そ、そうなのか」
俺はピンク色の会話に、色々な妄想を浮かべてしまいそうになる。
「何が『そうなのか』なの？」
「ん？」
顔を上げるとそこには不思議そうな顔をした委員長がいた。
「どうしたの？天文席はこっちじゃないでしょ？」
「何か茉理と美琴が話し込んでるからな。ちょっと気を利かせてる」
二人を指差す。二人は内緒話をするかのように、寄り添ってこそこそ話をしている。
別に気を利かせたつもりは毛頭ないのだが、ややこしくなるからそれで通した。
委員長もそれに納得したのか、特に何も言わない。
「ふぅん、じゃぁ私の話し相手になってよ。用事まで少し暇なんだ」
「あぁ、構わないぜ」
委員長は俺にアイスコーヒーを持ってきた食堂委員に紅茶を注文する。
「で、あの二人って何話してるの？」
早速、委員長は美琴と茉理のことを聞いてきた。
「んー、委員長にも関係ありそうな話だな」
俺は一度、委員長の胸元を見た。
お世辞にも大きいとは言いがたい、委員長の胸。
俺の視線に気付いたのか、委員長は自分の体をかき抱くようにして身を引いた。
「久住君、今どこ見た？」
思いっきり睨まれた。
「いや、俺は素直に答えただけだが」
俺のセリフを証明するかのように美琴の声が飛び込んできた。
「だって、私と茉理ちゃんじゃ身長が違うし。その辺を考えるとあまり変わらないよ」
「そうなんですけど、でも〜」
渋る茉理に美琴は追い討ち。
「私に比べたら、藤枝さんの方がおっきいよ。藤枝さんに聞いてみたら？」
「保奈美さんは別格ですよ。あの人には敵わないっす」
直接的な表現はなかったが、委員長も何の話をしているか理解したらしい。
「私も聞いてみようかしら」
さっきまで俺を睨んでいた委員長は何やら真剣に考え込んでいた。
「ねぇ久住君」
「ん？」
「久住君って藤枝さんと幼馴染みだったわよね」
「あぁ。そうだが」
「藤枝さんっていつからあんなにスタイル良いの？」
俺も健全な男子学生だからな、保奈美のスタイルの変化もそれなりに観察してきた。
一緒にいると成長は分かり難いと言うがアレは嘘だな。いや、保奈美だけ別格なのかも知れんが。
「中学の時くらいからじゃないか？保奈美の胸が大きいなって思い始めたのは」
「そんなに早いの？」
唖然とした表情の委員長。
「…いや、普通じゃないか？」
「……」
委員長は黙り込んでしまった。うぅむ、普通に答えただけのつもりなんだが。
「いや、ほら。委員長も身長からするとバランス良く…」
気まずくなってきたので一応フォローを入れてみる。
「ないのよ、これが。背が低いのも悩みのうち」
委員長は自嘲気味に笑った。
「そうだな。仕方ないよな」
引き下がってダメなら押してみた。
「何ですって（怒）」
なにを言っても無駄じゃん。
そっか、良く考えれば委員長と茉理って同じくらいのスタイルなんじゃないのか？
だから似たような悩みを持ってるんだな。
「身長が高ければ、多少バランスが悪くても箔が付くのにね」
「まぁこの年から身長の伸びに期待してもな」
あまりフォローにならない相槌を返す俺。
「あの身長が伸びる機械とかってどうなの？通販番組とかでやってるやつ」
委員長は本気らしい。
「あれって足の長さはそのまんまってオチが付きそうじゃね？」
「そうなのかしら」
真っ直ぐな委員長のことだから、その辺はコロリと騙されそうだな。
でもガセ商品に対してはしっかりやり返しそうだが。
「茉理ちゃん、久住君に揉んでもらえば？おっきくなるかもよ」
「冗談じゃないですよ。お金積まれたってヤです」
「即答か」
「嫌われてるのね」
委員長が俺をかわいそうな子を見るような目で見ていた。
「藤枝さんの胸が大きいのって久住君が揉んでるから？」
「えぇぇ！？い、いや…あの二人が付き合ってるとかどうとかって、聞いたことないし」
「でも仲良いよね、あの二人」
「そこんとこ、どうなんですか？久住君」
「黙秘だ」
「…否定はしないのね」
話の展開が危険な方向に向かいそうだ。潮時か。
と、委員長は腕時計を見ると
「そろそろ時間だから行くわ。相手になってくれてありがとう」
紅茶代をテーブルに置くと委員長はカフェテリアを出て行った。
俺もそろそろ向こうに行くか。
聞き耳を立てていたことをばれないよう、飲みかけのアイスコーヒーを飲み干すと
委員長の分と合わせて精算する。
その後、天文席に向かった。
「おう、どしたんだ？二人で」
「あ、久住君。やほー」
「げ、直樹」
対照的な反応だな。
「珍しい組合せじゃないか？」
「うん、茉理ちゃんが相談があるって言うから」
「み、美琴さん！」
美琴はあっさり答えたが、慌てる茉理。
一応知らない振りをして美琴に聞いてみる。
「で、なんの相談？」
「直樹、ダメだってば。美琴さんも答えちゃダメ」
美琴の口を押さえようとした茉理だが、残念ながら美琴はそれを上手くかわした。
しかし、その口から発されたものは…。
「えっとね、久住君と藤枝さんってどこまでの関係なのかなって」
「ぐ」
そう来ましたか、美琴さん。
と、少し唖然としていた茉理もチャンスと見たのか乗じてきた。
「そうよ、直樹。保奈美さんとどこまで行ってるのよ」
「お前、そんな大きな声で言うセリフじゃないぞ」
「あっ…とと」
口を押さえる茉理だが手遅れである。
カフェテリアの視線は天文席へ、って俺か！？
「きょ、今日は帰る。じゃあな」
どう見ても分が悪いのは明らかだ。
弘司には悪いが、今日は退散させてもらうことにしよう。
俺は足早にカフェテリアを後にした。
〜あとがき〜
ほなみんはオーガスト作品の中でも屈指の巨乳です（笑）
しかし何だ、大事なのは大きさじゃないはずだ！