秋山文緒SS番外編文緒inロータス
第2話 名犬・文緒
もしかすると、コレは夢なんじゃ！
そんな希望を抱きつつ。というか抱かずにはいられない。
なんてったって、私は犬になっているのだから！
「うー、わう。わうわう」
（そうよ、これはきっと夢なんだわ。頬をつねってみて痛くなければ夢のはず）
私は頬をつねろうとした。努力した。でも、手が上手く動かせない。
「わう！」
（今は犬だったんだ！）
犬の骨格上、指と指を合わせるなんて不可能。
ましてや、指を顔に持っていくことすら至難の技である。
「うー」
（他に手段は・・・）
頬をつねる作戦が失敗したので、別の方法を考える。
（そっか、犬は後ろ足で頭をかくんだっけ）
そのことに気が付いた私は早速試してみる。
が、なかなか上手くいかない。
「う〜」
（難しいなぁ）
後ろ足は持ち上がるのだが、なかなか頭部までもって来れない。
（しかもこの格好、かなり恥ずかしい）
足を大きく開いて頭まで持っていく、人間ではぜったいにやらない行為だ。
何度か試すうちに慣れてきて、多少自由が利くようになった。
「わう！」
（えい！）
ビシ！
「きゃん」
（痛っ）
後ろ足が思いっきり顔にヒットしてしまい、思わず声を上げた。
「くすくす」
声のほうを見ると、通りすがりのOLらしき女性が微笑んでいた。
かなり恥ずかしかったので私は一旦、小屋に引っ込んだ。
さて、先ほどの自分の一撃を受けて、どうやら夢ではないらしい。
「うー」
（普通に痛かったし）
「ロータス。朝ご飯だよー」
その時、天ヶ崎さんの声が外から聞こえた。
手にはドッグフードを持っている。
「わうわうわう！」
（天ヶ崎さん、私、秋山文緒）
「おー、朝から元気だね」
私が喜んでいるように見えたのか、天ヶ崎さんはドッグフードを下に置くと私の頭をなで始めた。
「んー、いいこいいこ」
「くーん」
（気付いて〜）
「もう、甘えん坊なんだから」
天ヶ崎さんは私の顔をガシっと掴むと左右に揺する。
「わうん」
（やめてよ、天ヶ崎さん）
「はい、おしまい。私も朝ご飯食べなきゃ」
最後に私の頭をもう一撫ですると天ヶ崎さんは立ち去ろうとする。
「わうわう！わうーん」
（天ヶ崎さん、待ってってば）
天ヶ崎さんは私の鳴き声に振り返ったが。
「ごめんね。早く朝ご飯食べないと遅刻しちゃうから」
天ヶ崎さんは私に手を振って、小走りに寮に入っていった。
「くーん」
（・・・）
残されたのは私と、その朝食（ドッグフード）。
朝食（ドッグフード）を見やるが、もちろん食欲などない。
ロータスはこれをいつも、がっつくように食べていたことを思い出す。
（美味しいのかな・・・？）
ふと、そんなことが頭を過ぎったが。
（ダメダメ。これを食べたら人間としてのプライドが）
軽く首を振って否定する。
「お困りのようですね」
優しい声が後ろから聞こえた。振り向くとそこには・・・。
あとがき
ちょっと短くてごめんなさい。続きは次回。