秋山文緒SS番外編文緒inロータス
第4話 魔法と書いてプリンと読む
「カフェテリアのデラックス手作りプリンを」
「は？」
結先生が何を言ったのか私は理解できなかった。
「ですから、カフェテリアのデラックス手作りプリンを」
結先生は同じ言葉を繰り返す。
「えっと、カフェテリアにそんなメニューありましたっけ？」
この学園で過ごして1年ちょっと経つが、そんなメニュー聞いたこともない。
「ええ、私専用の特注品なんですけど」
結先生はうっとりした表情でそのプリンについて語りだす。
「カフェテリアには手作りプリンがありますよね？」
「え？は、はい」
いきなり振られたので、ちょっと動揺する私。
「あれは一般人向けのサイズなのです」
「は・・・はぁ・・・」
プリンのサイズに一般人とかの区別があっただろうか。
珍しく熱弁を振るう結先生の瞳はキラキラというか、ギラギラと輝いて見えた。
「一方のデラックス手作りプリンは、なんと10リットルサイズのバケツでプリンを作るのです！」
「バケツ・・・ですか・・・？」
そりゃ、バケツサイズのプリンを想像したら、すごいと思う。
でも、実際に作る方も作る方だし、食べる方も食べる方だ。
いつだったか、結先生がバケツでプリンを食べたいといっていたことを思い出した。
「それで手を打ちましょう」
この世界では、それが実現していたのか。
右手を差し出してくる結先生。もちろん笑顔。
『お手』の容量で手を出してしまいそうになるが、踏みとどまる。
ちょっと計算してみた。
手作りプリンがだいたい150g。それが10リットルのバケツだから。
単純計算で70個弱。たしか1個250円くらいだったわよね・・・。
なかなかの金額だった。
「はい、契約成立」
「え？」
気が付くと私の右手（右足？）は結い先生に握られていた。
私が考えている間に手を取ったらしい。
「プリン、プリン、ぷーりーんー♪」
妙な歌詞つきで繋いだ手を上下に振る結先生。
「あの、本当に大丈夫なんでしょうか？」
「もちろんですよ。まかせてください！」
その自信がとっても不安だった・・・。
「さて、具体的に何をしましょうか」
むむむ、と手をあごに当てて悩む結先生。
「え？何か策があるんじゃないですか？」
私はてっきり方法があるのだと思っていたのだが。
「これから一緒に考えるんじゃないですか」
だそうです。いや、元から期待してませんでしたけど。
「うふふ。デラックス手作りプリンのことを考えると頬が緩んじゃいますねぇ」
やっぱりプリンのことしか頭にない結先生。不安すぎる。
のっけから期待を蹴散らされた気がしたが、何か手段はないかと考える。
「とりあえず私の本体に会いに行きましょうよ」
まず頭に浮かんだのはそのことだった。少なくとも私だけが頑張っても仕方ない。
「そうですね、では秋山さんの部屋に移動しましょうか」
そのことに結先生は同意してくれた模様。
でも、顔がニヘラっとしているのは相変わらずで。
「ではこちらへ」
犬小屋に入っていく結先生。
私もその後を付いていった。
犬小屋に入ってすぐ、一瞬だけ視界が暗闇に包まれた。
そしてふわっと体が浮くような感覚。
あの小さな空間に微妙に変化が生じた。
その次に訪れたのは柔らかいものに圧迫されるような感覚。
「むぎゅ」
思わず情けない声を上げてしまった。
「むぎゅ」
ちょっと前の方で同じようなうめき声が聞こえた。たぶん結先生のもの。
どこに辿り着いたのだろうか。
薄明かりに目を凝らすと、白やピンクや水色が見える。
花柄のフリルやレースが目に留まる。もしかして・・・。
もしかしなくても、洋服タンス。しかも禁断の下着コーナーである。
「ちょっと！なんでこんな所に繋がってるんですか！？」
私は慌ててタンスを飛び出す。
ドスン
「あいたたた」
私に押し出された格好になった結先生は顔からダイビング。
赤くなったおでこと鼻をさすっている。
「もう、秋山さん。急すぎますよ」
涙目で講義する結先生。
「あ、すいません。つい」
結先生に詫びをいれて、そそくさと引出しを閉じようとした。が・・・。
「あー！」
当然といえば当然のごとく。私（ロータス）の体毛がそこかしこに飛散していた。
「あとで掃除しなきゃ・・・」
無残な姿をさらす愛しの下着たちを引き出しに納めて振り向くと、結先生は私に向かって一言。
「私より、胸大きいんですね」
目が据わっている。温厚な結先生の目が・・・。
「いえ、それは仕方のないことというか何というか」
弁解するも結先生はいじけてしまった。
「どーせわたしは・・・」
こればっかりは仕方ない。えっと、結先生っていくつだっけ？
「結先生、まだまだこれからですよ」
まったく、何をしているんだろう・・・。
「はぁ」
ため息をついた。犬でもため息はつけるらしい。
ごそごそ
その時後ろで何かが動くような音がした。
あとがき
予想していたより、小柄だった委員長に乾杯。