秋山文緒SS番外編文緒inロータス
第7話 犬三昧
「いってきまーす」
蓮華寮の玄関から私の声がする。
間違いない、私になっているロータスだ。
私は小屋から飛び出すと
「ちょっと！待ちなさいよ！」
必死に吠えるが、ロータスの背中はどんどん小さくなっていく。
もちろん結先生も一緒だった。
完全に見えなくなったところで私は吠えるのをやめる。
「大変なことにならなければ良いんだけど」
私は項垂れながら、犬小屋に戻った。
太陽がちょうど真上に来た頃。
「おなかすいてきたな・・・」
そういえば、朝から何も食べていない。
天ヶ崎さんが用意してくれたドッグフードがあるにはあるんだけど・・・。
「さすがに食べられないよなぁ・・・」
プライドが邪魔をする。
いっそ、人間的な意識がなくなってればどんなに楽なことか。
空腹をまぎらわすために私は、小屋に入って横になった。
「ロータス、散歩に行くわよ」
小屋の外から美由紀さんの声がする。
朝から横になったまま目を覚まさなかったらしい。
お日様は傾きかけていた。だいたい3時過ぎだろうか。
私はのそのそと起き上がり小屋を出た。
「はい、じっとしててね」
美由紀さんは私の首輪に散歩用のリードを結びつけた。
「わうわうわう」
（うー、くすぐったいよぉ）
普段、人に首筋を触られることなんてないので、不思議な感じがした。
「さ、行くわよ」
美由紀さんがリードを引いて私を促す。
私は散歩される側の存在になった・・・。
犬が散歩中にすることといえば。
まぁ、その・・・色々あるんだけど。
私もご多分にもれず、というか何というか・・・。
朝からずっと犬小屋にいたわけだし。
・・・生理現象だもん。仕方ないでしょ！
自主規制。
ということで、30分くらい歩いて蓮華寮に戻ってきた。
結構楽しかった気がする。犬に慣れてきたのかも知れない。
あまり嬉しいことではないのだけど。
「はい、お疲れ様」
美由紀さんは私を小屋の鎖に繋ぐ。
「あら？」
美由紀さんが首をかしげた。視線の先にはドッグフード。
「食べてないじゃない。どうしたの？」
私の頭を撫でながら、優しく問い掛ける美由紀さん。
「わうわう。わうーん」
（すいません、食べたくても食べられないんです。人として）
それでも、特に問い詰めることなく、美由紀さんは私を撫でてから寮に戻って行った。
そしてまた一人になる私。
ぐぅ・・・。
おなかが鳴る。いい加減、本当におなかがすいた。
私はキョロキョロと周りを見渡した。
（誰もいないわよね）
私はさりげなく、ドッグフードに近づいていく。
クンクン・・・。
匂いを嗅いでみる。少なくとも美味しそうな匂いはしない。
さらにキョロキョロ。
人間だったら、挙動不審で何か言われかねない行動かもしれない。
ドッグフードを1つ口にしてみた。
「・・・」
なんともいえない、というかむしろマズイ。
無理して飲み込むと私はドッグフードから離れた。
幸い、空腹感は吹き飛んでいた。
なんとなく空を見上げてみた。
まだ日は高い。結先生とロータスが帰ってくるまでもう少し時間があるだろう。
私は仕方なく小屋で寝ることにした。
犬って気楽だなぁ・・・と考えつつ。
あとがき
最近ウチの犬の散歩に付き合ってないなぁ・・・。