秋山文緒SS番外編文緒inロータス
第8話 味覚とは
「・・・さん・・・きやまさん」
誰かが呼んでいる気がする。
私は重くなっていた瞼を持ち上げた。
ここは・・・あれ、私の部屋？。
えっと、今の声の主は・・・。
「おはようございます、秋山さん」
「おはよー」
結先生と私、じゃない。ロータスだった。
窓の外に目をやると、すでに夜の帳が降り始めていた。
「学園が終わりましたので、戻ってきました」
後ろで結先生が説明する。
「たのしかったよー」
満足げに話すロータス。
「ロータスは大丈夫だったんですか？」
私は結先生に向き直ると学園でのロータスについて聞いてみた。
「えっと、色々ありましたけど、ご都合主義ということで・・・」
あはは、と冷や汗を垂らす結先生。
犬が人間になって学園にまで行ったんだ、平穏で済む訳がない。
「食事とかトイレとか、人間って面倒だね」
「！？」
何気ないロータスの一言だったが、内容はとんでもない。
ガックシ・・・。そうね、犬だもんね。
プライドというかなんというか、その辺のものを踏み潰された気がする。
きっと学校では笑いものになったんだわ。もうお嫁にいけない。
「あー、その辺は魔法で何とかしておきましたから」
結先生は私の頭を撫でると、そう言って微笑む。
「何とかってどういうことですか？」
波だめになりながらも結先生を見上げる。
「先ほども言いましたが、ご都合主義で」
ブイサインを出すかと思いきや、マイスプーンで成功を主張する結先生。
非常に不安なんですけど・・・。
ぐぅ・・・。
私のおなかが音を立てた。
そういえば、朝から何も食べていないんだっけ。
「ちょっと早いですけど、夕食にしましょうか」
結先生が提案すると、私とロータスは頷く。
「ごはんごはんごはん〜♪」
ロータスは結先生に飛びつかんばかりの勢いだ。
きっと昼食時もこんな感じだったのだろう。
「何か適当に見繕いますけど、いいですか？」
壁にかけてあったエプロンに手をのばしながら結先生は冷蔵庫を開けた。
「あ、はい。お願いします」
「まかせてください」
冷蔵庫から材料を取り出した先生は、手にもっているものをテーブルに置こうとした。
しかし、私の部屋のテーブルはそれなりに高さがあったわけで。
「これは私への挑戦ですね、秋山さん」
結先生の目が怪しく光る。
「そんなわけないじゃないですか。ロータス、手伝って」
「はーい」
私はロータスに結先生を手伝うように指示しながら料理が出来上がるのを待った。
野菜が焼ける音がして、香ばしいにおいが漂ってきた。
犬の嗅覚は敏感だから、私の鼻が凄く反応する。
ぐぅ・・・。
先ほどと同様に、私のおなかがなっていた。
ガスレンジまで身長が届かない結先生は椅子の上で調理をしている。
ロータスはその椅子を押さえる係。
ロータスは鼻を鳴らしながら、期待に瞳を輝かせている。
「こら、ロータス。よだれを拭きなさい」
「あ、ごめんなさい」
ゴシゴシ。
「あぁ、私の制服が〜」
ちょっと考えれば予想できたことだけど、ロータスは制服の袖でよだれを拭う。
「はい、できました」
料理をお皿に盛り付け、テーブルに運ぶ。
私の目線からでは結先生が何を作ったのか見ることは出来ないが、いい匂いがしている。
私より長生きしてるだけあって、料理の腕もそれなりなのだろう。
「はい、秋山さんはこっち」
そういって結先生が用意したのは。
お皿に盛られた、茶色かったり赤黒かったりする固形。
少なくとも人間用の食事ではない。
「わー、秋山さん美味しそー」
ロータスがそんなことを言っていた。きっと本心なのだろうが。
「食べないんですか？」
その固形を前に固まっていた私に結先生が声をかける。
にっこり。結先生を見つめたら、笑顔で返された。
なんだか泣けてきた・・・。
「もう、ちょっとした冗談じゃないですか」
「冗談にもほどがあります」
ホントに冗談のつもりだったか、甚だ疑問だ。
犬の状態ではもちろん箸を使うことが出来ないので、直接口をお皿に持っていくしかないのだが。
やはり抵抗がある。
意を決して食事に口をつける。
「！？・・・けほけほ」
その味につい、咽てしまった。
「お口に合いませんでしたか？」
結先生が心配そうに覗き込む。
それもそのはず、あの香ばしい匂いがしているのに。
なぜか味はプリン風味。どうやったらこんな料理を作れるのだろう。
「なんなんですか、この味は！？」
「プリン風野菜炒めですけど、それが何か？」
何かおかしいですか？といった表情で料理を口にする結先生。
それが何かって、あなた。
「さっきバターを入れてませんでしたか？」
「たぶんプリンのカスタードの部分だと思います」
「オイスターソース、入れてましたよね？」
「カラメルの間違いでしょう」
「・・・」
きっと、何でもありなんだ。きっとなんでもありなんだ。キットナンデモ・・・。
ぽて・・・。
結先生の料理のせいかは分からないが、私は気を失った。
あとがき
お嫁にいけないですか？ならば私がもらってあげましょう。