秋山文緒SS番外編文緒inロータス
第9話 らっぴ〜
ここはどこだろう・・・。
私はただっぴろい草原の中に立っていた。辺りを見渡しても何もない。
無限に広がっているんじゃないかと思われるほどの、草原、草原、その先も草原。
空に赤みが差していることから、時間的には夕方だろうか。
やや強めの風が私に吹き付ける。
その風に私は一瞬、目を瞑る。
次に目を開けたとき、少し先に黒マントにとんがり帽子の出で立ちの少女がたたずんでいた。
その少女は私と目が合うとにっこり微笑んだ。
「秋山文緒さんだね？」
少女は私に問い掛ける。どうやら私のことを知っているらしい。
「そうだけど、あなたは？」
私も聞き返す。
「名乗るほどの者じゃないんだけど」
少女はちょっと考える仕草をしてから。
「みんなからはラピスって呼ばれてるよ。って、あぁ」
ラピスと名乗った少女を風が襲う。
とんがり帽子が風に乗って飛んでいってしまう。
ラピスは帽子を追いかけるが、風は更に強く吹いた。そして帽子も彼女も見えなくなった。
「何しにきたのかしら・・・」
私は唖然としながら彼女が走っていった方向を見つめていた。
「夢を見ているのかな」
自分の置かれた状況があまりにも非現実的だった。
そのせいもあり、きっとこれが夢の中なのではないかという認識をもつ。
もっとも、さっきまでロータスとして生活していたので、説得力はなかったりするのだが。
私は足元が汚れていないのを確認すると、ごろんと横になった。
これはきっと夢。だから何をしても変わらない。しばらくすれば目も覚めるだろう。
相変わらず吹く風は強かったが、それも心地よい。
私は目を閉じた。
「おまたせ〜」
聞き覚えにある声に私は目を覚ます。
さきほど出会ったラピスという少女が、息を切らせながら私の隣に立っていた。
「はぁ、はぁ・・・。ふぅ、ずいぶん遠くまで走っちゃったよ」
苦笑いをしながら額の汗を拭うラピス。
「そう、大変だったわね・・・」
私も苦笑い。笑うしかなかった。
「それで、私に何か？」
「うん、そのことなんだけど」
ラピスは少し難しい顔をすると
「ぶしつけなことを聞くけど、あなたは最近大変な目にあってない？」
大変な目。ロータスになって生活していることだろうか。
「まぁ、なんというか。そんな感じかも」
「うんうん、そうだよね」
言葉を濁したのだが、相づちを打つラピス。
「たぶん、動物か何かと人格が入れ替わったりしてない？」
続けざまに言葉をつむぐラピス。しかも大当たり。
「どうしてそれを」
夢の中だから何でもありか、なんて思っていたのだが。
「えっと、それ私の責任なんだ」
「はい？」
軽く頭を下げて謝罪するラピス。
ラピスが何を言ったのか一瞬理解できなかった。
『私の責任なんだ』って、ドウイウコトデスカ？
「えっとね、私の飼い猫がピアっていうんだけど」
ラピスは遠い目をしながら語りだした。
ことの経緯はこうだ。
彼女の飼い猫のピアがここ数日帰ってこないのだ。
知り合いに聞いても、誰も見ていないらしい。
心配になって何か方法がないかと考えた。
その結果、ラピスとピアの人格を入れ替え、ラピスがピアになって自宅に戻ってくれば、と考えた。
それで、魔法を発動させたのだが、上手くいかなかった。
ただ、魔法が発動した手ごたえだけは残っていたため、気になってその後の調査をしていたらしい。
ちなみにピアは翌日、ひょっこり帰ってきて餌を啄ばんでいたとのこと。
「というわけなんだ」
話し終えたラピスは、あははと笑う。
あはは、で済まされているのが非常に腹立たしいんですけど・・・。
「まぁ、過ぎたことは仕方ないとして。元に戻れますよね？」
「うん、もちろんだよ」
自信たっぷりに言うラピス。こんな笑顔を最近良く見ていた気がする。
「秋山さんに異変が起こる直前まで時間を戻すから」
「そんなことが出来るの？」
「もちろん。魔法はなんでも出来るんだよ」
結先生と似たようなことを言う。そういえば、ラピスってなんとなく結先生に似てるかも。
背格好とか特に・・・。
せっかくだから聞いておこうかな。
「話の腰を折って悪いんだけど、『プリンの精』って知ってる？」
「ん？なにそれ？」
「ううん、知らないならいいの」
ラピスは良く分からないといった表情で首をかしげた。
結先生がおかしい（？）のはラピスのせいではないようだ。
「えっと、どのくらい時間を戻せばいい？」
「そうね・・・今朝気付いたらロータスになってたから、その時まで戻れば大丈夫だと思う」
「じゃぁ今日の早朝でいいね」
「ええ」
「じゃ、目を瞑って」
「・・・」
ラピスに言われたように目を閉じる。
ラピスが何かつぶやいている声が聞こえる。
小さい声だったので、よく聞き取れなかった。
「迷惑かけてごめんなさい。それじゃ行くよ」
魔法を唱え終わったのか、最後の最後でラピスが私の詫びた。
「ぷっちんぷりりん。ぷりんのかみよ。そのおおいなるちからをこのばにしめしたまえー！」
あれ？どこかで聞いたことがあるような・・・。
その瞬間、目を閉じていても分かるくらいまぶしい光に包まれているのが分かった。
そして、浮遊感を感じたと思ったら・・・。
そこで私の記憶は途切れていた。
あとがき
魔法があれば何でも出来る。あー、魔法って便利だなぁ。
次回、ついに最終回。